所在地 | 兵庫県尼崎市 |
開設 | 平成18年 5月31日 |
面積 | 6.3ha |
公園種別 | 緩衝緑地 |
設置・管理者 | 兵庫県 |
兵庫県では、尼崎臨海地域を魅力と活力のあるまちに再生するため「尼崎21世紀の森構想」を策定し、構想のリーディングプロジェクトとして「県立尼崎の森中央緑地」の整備を進めている。この緑地において、平成18年には“プール施設・健康増進施設”を兵庫県初のPFI事業によりオープンさせ、民間のアイデアや工夫、活力が発揮され、開業以来着実に利用・売り上げ実績を伸ばしている。開業5年目の平成22年度以降は、実績売上高が計画売上高を上回っており、PFI事業の成功事例として注目されている。
兵庫県尼崎市の臨海部は、明治以前には葦や松が生い茂る美しい砂浜が連なり、「世界で最も美しい景観」と絶賛された所である。しかし昭和30年代の高度経済成長期に阪神工業地帯として埋立てが進み、重化学工業中心の工場地帯として我が国の産業経済の発展をリードしたが、その代償として自然を失い、公害などの環境問題が深刻化した。
このため、兵庫県では平成14年3月に、尼崎臨海部の自然をよみがえらせ魅力と活力のあるまちに再生するため、国道4号以南の1,000haの区域を対象とした「尼崎21世紀の森構想」を策定し、森と水と人が共生する環境創造のまちづくりを推進することとした。この構想において「尼崎の森中央緑地」は、リーディングプロジェクトとして“健康・文化の森”に位置づけられ、緑地内に県民の健康増進と水泳競技の振興を目的としたプール施設中心としたスポーツ健康増進施設「尼崎スポーツの森」を整備することとした(図1)。
この背景には、県民のスポーツ意識調査において“今後始めたい運動”の1位が水泳であり“設置を望む施設”の1位もプールであるなど水泳施設に対するニーズの高まりがあった。また、兵庫県からオリンピックをはじめ国内外の水泳競技大会へ多くの有力選手を輩出しているにも関わらず、総合的な水泳競技大会の会場となる施設が県内では当時神戸市に1箇所しかなかったこともあり、フィットネスジムやフットサルコート等プール施設と相乗効果を発揮する施設を併設した恒久施設を整備し、4年後に開催を控えていた「のじぎく兵庫国体」の水泳競技会場としても活用することとした。なお、「尼崎スポーツの森」は、平成17年に一般公募によって選ばれたスポーツ健康増進施設の“愛称”である。
兵庫県では、それまで本格的な県立総合プールの整備実績がなかったことから、その整備および管理運営をどのように行っていくかが課題であった。そこで行政の考え方だけではなく、民間の持つノウハウを積極的に活用して効率的な整備・運営を図っていくことを目的としてPFI事業を導入した。
スポーツ健康増進施設の整備にあたり従来方式(公設公営方式)に加え、公設民営方式、PFI方式での整備手法について比較検討を行った。検討調査の中で、実際に民間事業者にアンケートを行い、事業の可能性や進出意欲を調査したうえで、最終的に兵庫県で初めてPFI方式を導入し“プール施設を核としたスポーツ健康増進施設”の整備を行うことに決定した。スポーツ健康増進施設整備の事業者募集に先立ち、平成15年1月に、事業について県の考え方を示す「実施方針」を公表した。「実施方針」には、当事業をPFI法に基づく事業として実施することを明示し、スケジュール、県と民間のリスク分担の考え方、施設の要求水準、事業者決定の審査基準等を示した(表1)。
当時、PFI事業は全国では70件、兵庫県においては市町において3件が事業化されているだけであったが、「実施方針」の説明会には73社が参加、入札説明会には38社の参加があり、事業に対する関心は高かった。
平成15年4月に入札公告、PFI事業の範囲を設計~建設~維持管理・運営業務としたことから、企業グループでの入札を可能としており、最終的に3グループが参加し、同8月に入札(提案内容の提出)を行い、同9月に“近畿菱重興産・ヤマハ発動機グループ”を落札者に決定した。落札者は特別目的会社(SPC)「あまがさき健康の森株式会社」を設立し、平成15年12月に設計・建設にかかる事業契約を県と締結、金融機関から融資を受けて施設の建築に着手し、平成18年5月に完成し、供用を開始した。
施設が完成する前年の平成17年には、維持管理・運営にかかる事業契約を締結した。契約期間は平成35年3月末の約18年間で、これは施設の大規模な修繕や更新が生じないことを前提とする他、金利変動リスクや需要変動リスクを考慮して設定したものである。
事業者選定方式は、総合評価一般競争入札を採用し、管理運営や設計に関する入札参加者の提案内容の優秀さや実現可能性、資金計画の安定性や妥当性を各分野の専門家によって構成した「事業者選定委員会」にて審査した。評価については環境面や運営面等の事業内容にウエイトを置くこととし、評価における価格の重みづけを検討した結果「事業内容」と「価格」の評価の比率を7:3とした。
「尼崎スポーツの森」は、民間主導で維持管理・運営を行っており、県は運営に係る関与を必要最小限に止めている。また、需要変動リスクについて県は負担を負うこととしている。兵庫県がPFI事業者に支払う維持管理・運営にかかる費用すなわち「サービス購入費」は、図2に示すとおり、維持管理運営に要する費用(α)からPFI事業者が当初に提案した運営収入(β)を引いた費用(α-β)を基本とした上で、需要変動リスクを県1に対して民間2に設定し、入札時の提案収入と実際の運営収入との差額の1/3を県が負担することにしている。従って、当初の想定よりも収入が上がらない場合には、そのマイナス分の1/3を県が負担(リスク負担)することとなり、当初の想定以上に収入をあげれば、そのプラス分の2/3はPFI事業者の利益となり、兵庫県においてもプラス分の1/3はサービス購入費が減じる(利益となる)こととなる。
PFI事業者は、設計段階より運営を見据えた施設計画を立てていることから収入の見通しを立てやすく、さらに直接自社への収益になることから一層の運営努力に結びつくこととなる。このサービス購入費のルールがPFI事業者のインセンティブとなり、採算性とサービス水準を最適化する民間経営ノウハウの注入が図られている。
当施設のPFI方式の導入による財政削減効果(Value For Money)は21.4%であり、維持管理費や運営費の効率化がコスト縮減の大きな要因となっている「尼崎スポーツの森」表2、写真>1,2,3)は、平成18年5月にオープンし開館から今年で7年を迎えているが、PFI事業者は常に魅力あふれる施設づくりのためのアイデアを、機動力をもって実践してきている。例えば、施設面では水深を分割変更できる可動床を導入し、利用形態に応じ多様な使い方を可能にすることで、利用者ニーズにフレキシブルに対応している。運営面においては、アイススケートリンクは一般利用の時間以外での専用リンク貸しに24時間対応しており、フットサルでは学校や仕事が終わってから使用したいというニーズに応え、深夜2時まで営業を行っている。またフィットネスジムではシェイプアップやヨガなど30種類以上のコースを実施しているなど、多様な営業時間やプログラムを設定するなど工夫を凝らしている(表3)。
県においては、当初に設定した施設の要求水準を満足する運営が行われているか確認するため、尼崎健康の森株式会社に対して、業務報告書の提出や報告会の開催等のモニタリング監視を継続するとともに、互助会等各種団体との利用促進に向けた連携や、オリンピック競泳代表選手の事前合宿誘致に県をあげて取り組むなど、集客に向けてPFI事業者と一体となって取り組んでいる。
これらの取り組みの結果、「尼崎スポーツの森」はこれまで着実にその利用者数を増やしており、平成22年度以降は当初の計画を上回る運営収入をあげている。平成23年度には累積の運営収入でも当初計画を上回り、PFI事業として成功していると言ってよい状況にある(図3)
これまでは、施設が新しいことから維持補修に要する費用が軽微な範囲で収まっているが、今後は維持補修に要する費用が増加し、これまでと同様の運営収入をあげることが難しくなると考えられる。そのような中でも計画を上回る運営収入をあげられるよう、施設の長寿命化計画を実行し、県と事業者が協働して計画的な維持管理を行い、維持補修費の平準化と長期的な施設の機能維持を図っていくことが求められる。
また「尼崎スポーツの森」は、スポーツ施設としての充実だけではなく、「尼崎21世紀の森構想」の先導拠点施設であることを念頭に置きつつ、「尼崎の森中央緑地」において県民の参画と協働により進めている、地域産の種子から育てた苗木による森づくりの推進にも貢献し、地域活性化に寄与していくことが期待されている。
兵庫県 県土整備部 まちづくり局 公園緑地課