所在地 | 東京都新宿区下落合2-10 |
開設 | 昭和44(1969)年(既設おとめ山公園部) 平成26(2014)年(拡張部) |
面積 | 27,566㎡ |
公園種別 | 風致公園 |
設置・管理者 | 新宿区 |
おとめ山公園は、新宿区の北西部に位置する区立公園である。目白台地から神田川を臨む南傾斜地にあり、落合崖線に残された斜面緑地である。
[主な施設]
芝生広場、池、流れ、林間デッキ、幼児用遊具、健康器具系施設、ホタル舎(飼育施設)、トイレ
この公園の北方、豊島区目白三丁目所在の徳川黎明館、さらにその北にある「上り屋敷」地区(かつては西武池袋線の上り屋敷駅があった)と合わせ、江戸時代にはこの一帯が将軍家の所有であった。
敷地周辺は、将軍家の鷹狩や猪狩などの狩猟場であったため、一帯を一般庶民立ち入り禁止とし、「おとめ山( 御留山、御禁止山)」と呼ばれ、現在の公園の名称の由来となっている。また、当時は、ホタル狩りの名所としても知られていた。
明治時代には、この徳川家の土地一体を近衛家が所有していたが、明治末期に西側については相馬家に分譲された。大正時代に入り、相馬家は、屋敷を構え、崖線の細やかな地形を活かした広大な回遊式自然庭園がつくられた。この庭園だった部分が、現在のおとめ山公園となる。
第二次世界大戦中には手放され、その後、敷地は次第に森へと姿を変え、いつしか地元住民から「落合秘境」と呼ばれる自然豊かな場所となった。
昭和39(1964)年に「落合秘境」一帯は、国有地となり、国家公務員住宅の建設予定地となっていた。この建設計画に対し、森林の喪失を憂えた地元の人たちが「落合秘境」を保存する運動を起こした。署名運動や田中角栄大蔵大臣( 当時)への陳情など活発な運動が展開された。
自然を残してほしいとする近隣住民の強い要望が実を結び、国家公務員住宅の計画は縮小され、「落合秘境」の一部は、公園として保存されることとなった。
その後、東京都が整備を行い、昭和44(1969)年7月1日に公園として開園した。開園と同時に新宿区に移管され、以後区立公園として、湧水・流れ・池・斜面樹林地からなる自然豊かな公園となった。
平成17(2005)年6月、新宿区は、おとめ山公園が所在する落合斜面緑地など、区内に残る貴重な緑のまとまりについて積極的に保全拡充していく考えを示した。こうした中、おとめ山に隣接する国家公務員住宅が廃止されることが決まった。また、公園に隣接する民有地の売却情報も入手し、追加買収することを決めた。
こうして4区画、約1.2ha の隣接地を取得し、拡張整備事業が進められることになった。それに伴い「区民ふれあいの森」構想が立ち上がり、平成21(2009)年から地域住民、関連団体、学識経験者、専門家からなる検討会が開かれ、拡張区域をどのような公園にすべきか、十分に時間をかけ検討され、平成26(2014)年10月26日に全面開園した。新宿区立の公園としては、新宿中央公園に次ぐ規模となる。
公園中央部に道路(通称名:おとめ山通り)があり、公園が西側と東側に分かれている。
西側の園内はナラ、シイ、クヌギなどの雑木林で構成され、かつての武蔵野の景観を残しており、森林浴を楽しむことができる。高台には見晴台があり、高田馬場の街を垣間見ることができる。
また中央の谷間には湧水によってできた池がある。池の源流にはサワガニ・ヌマエビなども見ることができる。池にはカルガモが飛来し繁殖するため、道路には「カルガモ注意」の標識が設置されている。東側の園内にも大きな池( 弁天池)があり、天気のいい日には亀の甲羅干しが見られる。
新たに拡張整備された区域では、かつてこの地にあった谷戸地形( 台地などが浸食されて作られた谷状の地形)や、武蔵野の原風景である雑木林を再生し、この土地が持つ自然や歴史の記憶の再生が図られている。
敷地内の斜面からは東京の名湧水57選に選ばれている湧水が出ている。江戸時代には、このあたりがホタルの名所であったことから、湧水を利用したホタルの飼育所が設けられ、地域住民の方々によってヘイケボタルの飼育やイベントが行われている。
おとめ山公園の大きな特徴の一つとして前述した湧水の存在があげられる。湧水は、西部、東部それぞれに湧水源と考えられるところがあるものの、池や多自然型水路沿いの斜面などのいろいろな所から湧いており、それらは、水路を経て池へ流入する。
もともとおとめ山公園付近は、地下水位が高いものの、周辺の開発の影響により涵養域( 地表の水が地下に浸透し、地下水となる域)への雨水などの浸透は、減少傾向にあると考えられる。ある開発を期に、涵養域の水が減少し、湧水が枯れてしまう可能性もある。
区立公園は、都市型水害防止の意味合いで、表面排水型ではなく浸透施設を設けているが、これは、公園内に降った雨は、まず、公園内で浸透させるという考え方である。
おとめ山公園でも拡張区域は特に芝生面が多い傾斜面であるため、表面排水だと流れ出てしまう恐れがある。このため、拡張区域には、雨水の急速な流出を抑制するため「芝側溝」を配置している。
これは地表の芝に小段及び凹みを設け、地中には砕石および浸透トレンチを設置したものである。
一度、雨水を受けたら、まず、「芝側溝」によって表面排水となり流れてしまうものを受け止め、できるだけ浸透させ、時間的に流出を抑制する構造となっている。オーバーフローするものは、池に流入する形にしており、最終的に下水処理する量を抑制している。
北側の拡張区域である「みんなの原っぱ」「谷戸のもり」は以前、公務員住宅であり、雨水は基本的に下水処理されていたが、公園となった現在、この「芝側溝」による浸透施設を設けることにより地形に即した形で涵養域へ浸み込んでいくこととなる。
拡張区域の「芝側溝」による浸透施設の設置は、昔からある手法を改めて、公園の自然の地形特性を鑑みて活用し、都市型水害の対策及び、湧水、涵養域の保全に寄与していると言える。
おとめ山公園は、歴史的にも近隣地域とのつながりが強く、地域住民の関心や思いは強い。西部の樹林帯に関して言えば、「樹林帯には子どもだけでは行くな」といわれているほど見通しが悪い。そのため、子どものために樹木をある程度伐採した方が良いという意見もある一方、自然保護の立場から樹木を切るなという意見もあり、樹木に関してだけでも幅広い意見がある。また、園内に現れる猫が好きな人もいる一方で、生息するカルガモを猫等から保護する目的で網や釣り糸を設置しようという意見もある。地域とのつながりが強いがゆえに、公園に対する考え方も様々である。
そんな中、拡張区域が開園したことによる新しい利用者の増加に伴い、利用マナーに起因する問題も発生している。
ひとつは、園内の自転車走行の問題である。園内の園路には、拡張地域をつなぐデッキ部分があるのだが、それを利用し園内を自転車に乗ったまま走行する来園者がみられる。区立公園においては、自転車は軽車両であり、基本的に乗り入れは禁止されている。
もうひとつは、犬の放し飼いの問題である。これは、拡張区域ができたことで、放し飼いがしやすい広場ができ、新しい人が来園するようになってから特に多くみられるようになった。このことにより、今までの秩序、暗黙の約束事の保たれていた状況が変わってしまった。
園内のマナーの問題に関しては、地域の町内会も危機感を持つようになった。主に関係する町内会は4つあり、下落合東町会、下落合町会知久会、下落合四丁目町会、高田馬場住宅自治会である。おとめ山の歴史の中で4町会は協力してきており、おとめ山公園に対する思いや愛着が強い。お花見の会、防災訓練などが行われ、ホタルの育成に関しても公園のサポーターが関わっている。
4町会は、管理者である新宿区に相談し、園内のマナーアップ啓発運動を行おうということとなった。方法はマナーアップを呼びかけるフライヤーを作成し、そこに4町会合同で名前を入れ、配布するというものである。配布は、毎年5月に町内会主催で開催される「おとめ山緑祭り」などにて行っている。
地域住民、利用者自身が関わることにより拡張区域も含めた公園の利用方法についてのルールの周知や、マナーアップに取り組んでいる。地域住民の昔からの公園への思いや関心があったからこそ、地域住民自身から発信された活動が形となって表れたと言える。
毎年5月に開催される「おとめ山緑祭り」は平成27(2015)年時点で42回を数える。この集まりを通じて地域住民とおとめ山公園との関わりは、下の世代にも受け継がれていく。
取材協力(平成28年):新宿区みどり土木部みどり公園課