市民とつくる木曽川の歴史遺産再生

河跡湖公園

カテゴリー:歴史・地域文化 生物多様性

河跡湖公園 写真

施設概要

所在地 岐阜県各務原市
開設 平成21年3月14日
面積 5.1ha
公園種別 地区公園
設置・管理者 各務原市

 「河跡湖」は、鉄砲川と呼ばれる小さな流れの中にあるミツヤ池とホウスモト池の二つの池のことです。木曽川の洪水の足跡ともいうべきもので当時にほぼ近い姿をとどめて今日まで残っており、きわめて貴重な自然遺産といえます。
 平成19年度から20年度にかけ、総面積5.1ha、総延長約1.5㎞に及ぶ河跡湖の自然環境の特性を活かし、川島地区の歴史と自然を後世に伝える拠点的な公園として整備を行ない、平成21年3月14日「河跡湖公園」としてオープンしました。

詳細

1.水と緑の回廊で結ぶ「公園都市(パークシティ)」

 私たちは人間が住むにふさわしい都市は、「公園都市」であると考えています。それは地域特有の環境を活かし、市内の水と緑が回廊として結ばれている美しいまちです。本市の個性を活かし、自然と都市機能を調和させることにより、生活の場・仕事の場である都市に、人生潤す憩いの場や癒しの空間を創出する「公園都市」の実現を目指し、緑の基本計画である「水と緑の回廊計画」を策定しました。

2.整備の背景

 各務原市川島の河跡湖(鉄砲川)は、川島地区の輪中集落を分断していた木曽川派流の一つでした。大正年間の木曽川の大改修により堤内に取り込まれ、流れの安定した自然豊な小川として今日に継承され、木曽川の歴史を伝える自然遺産となりました。また、旧堤防沿いには、集落、社寺、学校等が立地し、地区の中心にもなっています。しかしながら、住民の暮らしと川が乖離するなかで、近年は河畔林の荒廃や家庭排水による水質の悪化が進んでいました。

 河跡湖の環境を向上させることは、川島地区の人々の永い間の願いでした。そこで、平成16年の市町合併を契機に、地区の歴史風土を活かしたまちづくりの先導的なプロジェクトとして、河跡湖をまちづくりの核となる公園として再生する計画がスタートしました。計画づくりにおいて重視したことは、市民によるワークショップを重ね、地区における河跡湖公園のあり方を共有し、市民と行政の協働による公園づくりを進めることでした。公園計画の基本的な考えは以下の3つに集約されます。

①木曽川との戦いの歴史の伝承

 水との戦いの歴史を伝えるインフラである旧堤防(街道)、精神的な拠り所であった沿川の鎮守の森を取り込む。また、輪中共同防御として機能していた「結い」の考え方を、公園の運営に受け継ぎ、コミュニティを形成する。

②木曽川の生物多様性の継承

 木曽川に現存する多様な水環境(止水域、流水域)、湿地、河畔林などのビオトープタイプに基づいて河跡湖周辺の環境を再生し、木曽川の生物多様性を継承する。

③森と川のあるライフデザイン

 「子どもたちの春の小川」「鎮守の河の森」など、水と共にあったかつての川島の人々の暮らし方を新しいかたちで現代に創造する。

3.整備の目的

 「水と緑の回廊計画」に基づく事業は、市民参加により行ないます。特に公園整備は、計画から維持管理まで市民と行政が協働で行うことを原則としています。河跡湖公園の計画段階では、小・中学生からシニアまで幅広い年齢層により「魅力と課題の発掘ウォークラリー&ワークショップ」を数回開催することができました。これらのワークショップを通じて、公園設計の基本理念を「環境の世紀における 河川空間の再生を通じた郷土の自然、地域文化の継承」と定めました。水との戦いの歴史であった木曽川輪中の生活文化は、時代の変遷のなかで忘れ去られ、まちも個性を失いつつありました。この公園整備では、河跡湖をまちの自然、歴史文化を継承する環境インフラとするとともに、河跡湖と共にある生活を、新たなライフスタイルとして再生、継承することを目的としました。

4.設計~整備
① 自然遺産としての河跡湖公園:生物多様性の回復を目指した公園整備

 川と密接に結びついた暮らしが営まれた木曽川沿川地域ですが、現在は河川改修により高い堤防が築かれ、物理的、視角的に容易に水辺に近づくことが出来なくなっています。そこで、木曽川後背湿地の自然環境と水辺へのアクセス性を兼ね備える、特殊かつ希少な河跡湖の環境を活かした、生物多様性の回復を基本とする公園設計を行いました。計画対象地の自然環境は、長い間の管理放棄によって、河畔の自然環境の荒廃が進み、老木の枯損、植生の単純化が進んでいました。そこで、現地調査に基づき、木曽川後背湿地のビオトープの類型化を行い、生物多様性保全・再生の基本方針を導きだしました。

 第一に、河畔林(エノキ-ムクノキ群集)については、毎木調査を実施し、保存樹木の選定を行い、アズマネザサの繁茂による林層の単純化を改善するために、選択的な林床管理を実施しました。

 第二に、水辺の湿地植物群落の保全再生については、止水域、流水域に区分し、植生調査を行い、アカメヤナギ、ボントクタデ、ツルヨシ、クサヨシ、マツカサススキ、イグサ、サンカクイ、ミゾソバ、セキショウ、セリ、ヒメジソ等、既存の植生を生かし、保全・再生計画の作成を行いました。

 第三に、河畔に残る崖線は、カワセミの営巣地となっているため、重点的な保全を行いました。また、中州として発達しているヨシ群落は、ゴイサギの生息地であるため、保全を行いました。

②森と水辺の一体的な再生:生物生息環境の多様性の向上とレクリエーション、環境学習の場の創出

 水辺や湿地の再生、河畔林の保全、鎮守の森への連続性の確保を同時に行うことで、水面、水辺、湿地、河畔林、森までの多様な移行帯(エコトーン)を創出しました。これらの環境を、木曽川後背湿地の自然環境を体験、観察する場として位置づけました。整備後は、隣接する保育園、小学校、中学校の環境教育フィールドとして、活用されています。同時に、水辺や森での遊び、自然とのふれあいなど、他にないレクリエーション活動の幅をもつ公園となりました。

③地域性を尊重した21世紀のまちづくりの核としての公園づくり。

 本市では、「水と緑の回廊計画」に基づき、水と緑に恵まれた美しいまちづくりを推進しています。このまちづくりの核となる環境インフラとして河跡湖を位置づけ、重要な自然環境を再生し、次の世代へと継承していくよう、公園づくりのプログラムを設計しています。

・ 暮らしに結びつきのある公園づくり:生活の場と河跡湖を、「子どもたちの春の小川」、「鎮守の森」など、敷地のポテンシャルを活かした公園づくりによって結びつけることを意図し、設計しました。この公園づくりは、維持管理、子どもの遊び、環境教育等を通じて継続的に進めています。

・郷土の景観資源を活かした個性あるまち並みづくり:河跡湖周辺の市街地に残される、旧集落の骨格であった旧堤防や「ごんぼ積み」の水屋建築と連携した、まち並み形成を推進しています。

5.整備効果

 本市では、緑のボランティア活動を行う「パークレンジャー」制度を平成13年度に設立しました。パークレンジャーとは、公園等の緑化、清掃活動から花の植栽、利用者へのマナー啓発など、それぞれ自主的に計画を立て活動しているボランティアグループです。現在、市内各地域で59団体2,000人以上が活動しています。平成20年度、約400人の大学生がパークレンジャーに登録されました。その理由は、「通学時やまちを歩いている時に、社会人、シニアの方が草取りや掃除している姿をよく見かける。我々学生も何かをしなければいけない」ということでした。また、市内のボランティアは、福祉や教育、消防などを含めると、市民の約14%がボランティア登録するなど、本市はボランティア活動が盛んなまちです。

 河跡湖の再生においても、かつての「結い(輪中共同防御の協働概念)」の文化を新たな時代に継承するものとして、計画からその後の維持管理活動まで、公園づくりを継続的に支えるパークレンジャーの立ち上げ・育成を進め、公園づくりを核としたまちづくりを推進しています。開園当日、「魅力と課題の発掘ウォークラリー&ワークショップ」の参加者を中心に、新しく「河跡湖公園パークレンジャー」、「三ツ屋里山を緑にする会」が設立され、それぞれ活発な活動を展開しています。また、パークレンジャーとは別に、地域自治会による清掃活動も定期的に行なわれています。

 開園以来、毎年9月に「河跡湖公園フェスティバル」を開催し、多くの来園者で賑わいます。中学生や地域の音楽サークルによる「屋外ミニコンサート」、パークレンジャーの「トン汁ふるまい」、河跡湖での「Eボート体験」等、地域住民参加型のイベントも行なっています。このような活動を通じ「河跡湖公園」の維持・運営管理が推進されています。

6.都市公園コンクール

 河跡湖公園は、4歳になりました。素晴らしい公園は、一夜にしてできるものではなく、日々成長していかなければなりません。そのためには、地域住民がこの公園に誇りと愛着を持つこと、自信を持つことが必要です。平成22年度、日本公園緑地協会主催の第26回都市公園コンクールでは、河跡湖公園が国土交通大臣賞という最高の栄誉に浴する結果となりました。河跡湖公園を支える一人ひとりの市民が、自分たちの公園に誇りを持ち、今後の活動の更なる励みとなっています。これからも一つ一つの課題に真摯に取組み、市民とともに河跡湖公園を成長させいく所存です。

各務原市 都市建設部 河川公園課

 

 

 

 

 

 

 

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