キャッチボールができる遊び場づくり

千代田区和泉公園ほか

カテゴリー:健康づくり 地域活性化・コミュニティ 子育て

千代田区和泉公園ほか 写真

施設概要

所在地 東京都千代田区神田泉町1
開設
面積 4,600㎡
公園種別 街区公園
設置・管理者 千代田区

和泉公園は、区立和泉小学校、こども園や図書館等の入った区の施設と三井記念病院の大きなビルに囲まれた場所にある。遊具広場や芝生広場がある和泉公園は、都心の貴重な緑地として、子どもの遊び場から近隣で働く大人の憩いの場まで、幅広く利用される。

詳細

1. 社会的背景

近年、都市部を中心に子どもたちの安全な遊び場確保が課題になっている。市街地でスぺースの限られる公園では、利用者の安全確保などの配慮からキャッチボールなどのボール遊びを禁止している場合も多い。子どもたちがのびのびと多様な外遊びができる環境づくりが求められている。
そのような中、千代田区では、子どもにとっての外遊びの必要性・重要性、区や区民、事業者等の役割など、基本的な理念を盛り込んだ「子どもの遊び場に関する基本条例」( 平成25(2013)年3月)を制定し、区内の公園や遊休地などのオープンスペースを活用した「子どもの遊び場事業」を展開している。

2. 取り組み実現までのプロセス

千代田区では「キャッチボールができる公園をつくってほしい」という区民からの要望を受け、教育委員会事務局子ども部子ども総務課が中心となって、平成24(2012)年から実現に向けた検討をはじめている。検討当時の千代田区にはキャッチボールができる公園はなく、校庭開放も基本危ないことはしないということが共通認識としてあり、キャッチボールはできない状況だった。
子どもたちがボール遊びをできる場所をつくるため、平成24(2012)年6月に、地域・学校・PTA関係者・青少年委員・スポーツ推進委員や、道路公園課など庁内関係部局を交えた「子どもの遊び場確保に関する検討会」を設置して議論を重ねるとともに、同年10月からは和泉公園と外濠公園の2ヶ所で子どもたちを見守るプレーリーダーを配置した「ボール遊びができる遊び場」を試行し、議論の方向性を検証しながら、条例を策定した。

3. 遊び場事業の拡大

2公園( 和泉・外濠)からはじめられた「子どもの遊び場事業」は、年々実施場所と回数を増やし、本格的な取り組みから3年を経過した現在では、区内7ヶ所で定期的に実施するまでになった。

 

子どもの遊び場事業開催状況

 

実施場所の増加とともに参加者も増え、平成25(2013)年度は13人/ 箇所だった平均参加人数が、平成27(2015)年度には15.6人/ 箇所になっている。
通常、遊び場の参加者は小学2~4年生が多い。土日開催の遊び場では、親子で参加する様子がみられるなど、周辺環境や開催日時によって、遊び場毎に参加者や遊びの内容に違いがみられ、地域毎の遊び場になっているようだ。

4. 狭いながらも遊び場を確保

子どもたちの生活圏で遊び場を開催するため、区内の8つの小学校区に一箇所ずつ活動場所を設けるというのが事業開始からの目標だった。
しかし、千代田区は皇居を中心に配し、官公庁が集積する地域、大規模商業地域が大きな割合を占めているため、事業展開に適した場所を確保するのに苦慮してきた。そのため都市公園に限らず区内にあるオープンスペース、未利用地を利用するなどして徐々に活動場所を確保し、今年2月の国有地の一時借用によって、全ての小学校区内で遊び場を開催する目処がついたところである。

遊び場開催位置図(千代田区土地利用の方針図をベースに関係位置を加筆)

5. 区の特徴を活かした活動の継続性を高める実施体制

遊び場の開催にあたって、周知や備品の調達などは、事業を担当する子ども総務課で行い、「子どもの遊び場事業」のホームページや「広報千代田」による都度の開催日の告知、年一回区立小学校全児童にチラシを配布するなど、事業の周知を図っている。
遊び場活動の主体となるプレーリーダーの確保と育成は、事業当初から取り組みに参加している( 一社)D&A Networks( 以下D&Aと表記)に委託している。
D&Aは千代田区を拠点とする団体として、遊び場事業をはじめとする子どもたちが参加するイベントの企画・運営、人材養成の他、社会福祉関連事業や、さくらまつりなどの観光イベント、地域活動の支援を行っており、千代田区内にある大学を中心に251名(H26年度実績)の学生が登録している。遊び場のプレーリーダーは、D&Aに登録して講習会の研修を受けた学生が派遣されているが、学生は、遊び場に限らずD&Aの事業を
選択して活動することができる。
千代田区は昼夜間の人口比率が全国で最も高い地区* で、通勤・通学人口が多い。D&Aでは、区内に通う若い人が多いという特徴を活かし、大学生の若い力を地域活動で発揮する場を提供するとともに「社会人の部」をつくり、卒業後も活動を続けやすい体制にしている。社会人の部には50名ほどが登録している。
この活動によって、居住者以外にも学びの場や職場として、地域に愛着を持って係る人材を増やすことが期待できる。
*総務省統計局 平成22年国勢調査:昼夜間人口比率

6. 学生を取り込む魅力

D&Aに登録を希望する学生は増え続け、現在は千代田区外の大学からも問い合わせが来ている。代表の中田氏は、自身が学生時代から10年以上、土曜日の小学校の校庭開放に参加して、子どもたちと遊ぶ活動をしてきた。自身の経験から学生が地域活動に参加しやすい体制をつくることで、多くの学生を取り込んでいる。
複数の事業の中でも遊び場は学生から人気がある。最近は1ヶ所当り4名のプレーリーダーの募集に対して学生の応募の方が多くなってる。
プレーリーダーの学生は教職や福祉系を選考していることが多い。外濠公園で活動していたプレーリーダーの学生は、「児童養護施設に実習に行く前に子どもたちと接する機会がほしかったので参加した。」とのことだった。

〈参加しやすい体制づくり〉
◯地域活動に参加するための研修・人材育成:登録者全員に福祉活動や地域活動に参加するためのマナーや留意点の研修、とりまとめ役となる上級者にはゲー
ムの企画やリスクマネジメントの研修を実施している。
◯ D & A の複数の事業から希望の活動・日にちを選択可能:地域に密着して複数の活動に参加できる上、柔軟な参加システムがバイトや学業と両立しやすくしている。
◯有償でのボランティア:交通費と薄謝を支払い学生自身の持出しを押さえている。
◯ボランティア活動の実績証明:行政と連携した事業のため、ボランティア証明書を個別に発行することが可能。就職等の際に活動証明として認められやすい。
◯各大学の福祉サークルなどの学生団体との連携:定例会で講習を実施するなどの協力により、学生を集めやすく、口コミが広がりやすい。
7. 遊び場の開催状況

条例制定前から取り組まれてきた和泉公園、外濠公園の遊び場は、毎回参加するリピーターの子どもたちも増え、人気の遊び場になっている。プレーリーダーの学生よりも遊び場に詳しい子もいるほどだ。
和泉公園では、取り組み当初の平日木曜日の開催に加えて、平成27(2015)年4月から土曜日にも遊び場を開催している。小学校や子ども園と隣接し住宅からも近いという好立地もあってか、他の開催場所と比較して子どもの参加が多い。
近隣のこども園に通う保護者にお話を聞いたところ、「遊び場の活動は、広報千代田やHP で知っている。他の遊び場には行かないが、毎回利用している。普段は母親が一緒に走ったりしなければいけないので、プレーリーダーが代わりに遊んでくれると助かる。」と話していた。普段も和泉公園を利用しているが、大学生が遊び相手になることで、子どもたちに良い刺激を与えているようだ。
外濠公園総合グラウンドは、普段は野球場、テニスコート、運動場として、予約による団体利用のため一般には開放されていない。事業実施当初の外濠公園は、周辺からのアクセスがやや不便で、参加者の増減が激しい場所だった。しかし、最近は小学校高学年の子どもたちが集団でキャッチボールをしに来ることが多くなっている。
さらに、遊び場の開催によって気軽に芝生のグラウンドを利用できることから、乳幼児の親子の参加も多い。近くのマンションに住む2歳の子のお母さんは、「ベランダから遊び場が開催しているのを見て、久しぶりに来た。芝生で遊べる貴重な時間です。」と話していた。
また、事業開始から来ているという3年生の男の子は、「来る子が少ない時は大学生を独り占め出来てうれしい。けど、もっと有名になればいいのに。」と話してくれた。4、5年生が多く、小さな子には少し疎外感があるのかもしれない。子どもたちだけで独自の遊びを考え、遊んでいる姿も良いが、プレーリーダーが異年齢での遊びを誘発するように仕掛けができると場の多様性が生まれるのではないかと思う。
千代田区内の主な芝地の公園は、和泉公園と外濠公園総合グラウンドの他に1ヶ所しかない。そういった事業も、常時開放された芝生広場がある和泉公園の人気を高くしている。
公園管理者である道路公園課では、月1回以上の芝刈りや目土、冬季以外には施肥を行うなど、芝生の管理に努めている。芝生のある公園は貴重なため、遊び場開催の有無に関わらず、維持管理には気を付けているようだ

今後の展開

 千代田区としては、将来的にはプレーリーダーが居なくても子どもたちが自発的に遊べる状態の公園になることが理想だと考えているものの、今年度全小学校区内への開催ができるようになり、まだ事業は活動体制が整ったばかりである。そのため、プレーリーダーの人材の確保が当面の課題とのことだった。
遊び場にくる子どもたちの多くはプレーリーダーである大学生のお兄さん、お姉さんに会いに来ている。子どもたちを惹きつけるプレーリーダーは貴重な人材であり、できれば継続して参加してもらいたいと考えている。
学生が多い地域特性を利用した千代田区の活動体制を一概には他地域で実施することができないものの、大学生などの若者が地域に係りやすい仕組みをつくり、子どもとの触れ合いや地域住民との関わりの中から、地域に愛着をもつ取り組みを推進してほしい。

取材協力:千代田区教育委員会事務局子ども部子ども総務課事業係
(一社)D & A Networks

 

 

 

 

 

 

 

 

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