市民とともに育てつづける「ハーフメイド」エリアを持つ公園

大阪府高槻市安満遺跡公園

カテゴリー:パークマネジメント 地域活性化・コミュニティ 市民参画 歴史・地域文化 民間活力

大阪府高槻市安満遺跡公園 写真

施設概要

所在地 大阪府高槻市八丁畷町
開設 2019年(一次開園) 2021年(全面開園予定)
面積 21.76ha
公園種別 総合公園
設置・管理者 高槻市

高槻市では、弥生時代の貴重な歴史資産である国宝級の国史跡安満遺跡を保存・活用しながら、防災機能を備えた、緑豊かな公園の整備を進めている。また、「市民とともに育てつづける公園」をコンセプトに、様々な市民活動やイベントが数多く展開されることを目指している。平成31(2019) 年に一次開園、平成33(2021) 年には全面開園の予定である。
[主な施設](予定):パークセンター(全天候型「子どもの遊び施設」含む)、民活カフェ、エントランス広場、芝生広場、せせらぎ、ステージ、土広場、遊戯広場、多目的広場、原っぱ、休憩所、国史跡安満遺跡(居住域、生産域、墓域)、旧京大農場建物群、臨時ヘリポート、駐車場、駐輪場

詳細

1.背景

高槻市は、大阪平野の北東にあり、京都と大阪の中心に位置する「関西中央都市」であり、「みらい創生」を合言葉に国史跡安満遺跡を保・活用した公園整備などを成長基盤として都市の魅力と活力を高める施策を実施している。
安満遺跡は、北摂山地から南流して淀川に注ぐ桧尾川が形成した扇状地の末端近くに立地し、北に安満山を南側は淀川から大阪平野を一望する。

公園区域

遺跡の西側には大阪府高槻市の中心市街地が隣接し、主要な公共交通機関であるJR 東海道本線高槻駅から約1.1km( 徒歩14分)、阪急京都線高槻市駅から約0.8km(徒歩10分)の距離に位置する。同地には、昭和初期に京都大学大学院農学研究科附属農場( 以下、京大農場)が開設されたが、平成24(2012)年に京大農場は京都府木津川市へ移転が決まった。
高槻市は、この中心市街地に近い広大な跡地一帯を整備し、国史跡安満遺跡を保存・活用するとともに防災機能を備えた緑豊かな公園の整備を進めている。公園区域( 約20.9ha)のうち、国史跡指定地( 安満遺跡)については、文化庁の助成制度を活用する「史跡事業エリア」、それ以外の区域では、UR( 独立行政法人都市再生機構)による防災公園街区整備事業を活用する「防災事業エリア」とし一体的に整備を行っている。

2.公園整備の概要
(1)理念・目標像の策定

平成24(2012)年から大阪府立大学の増田昇教授( 造園)、大阪大学の福永伸哉教授( 考古)、関西大学の越山健治准教授( 防災)を交えた整備構想検討委員

理念目標像

会のほか、市民ワークショップなども開催し平成26(2014)年3月に公園整備構想を策定した。構想では、理念と5つの目標像が定められている。理念の中の「市民とともに育てつづける」は本公園の計画を進めていく上での重要なコンセプトである。

(2)国史跡安満遺跡

安満遺跡は、弥生時代の環濠を含む総面積約72万㎡の集落遺跡である。居住域、生産域、墓域の3つの要素で構成されており、その関係を
時期的にたどることができる。弥生時代の「クニ」の変遷過程を明らかにすることができる、極めて重要な大規模遺跡である。このため平成5
(1993)年、平成23(2011)年に国史跡に指定されている。

(3)災害時における防災機能

震災時には周辺の大規模火災から避難できる広域避難地となり、3日間程度安全に避難できる機能として、避難スペースの確保、防火樹林帯の設置、避難者や緊急車両の公園への円滑な進入のための入口形態・外周形態を備えている。又、ボランティア拠点としての機能、応急仮設住宅候補地や災害時用臨時ヘリポートといったオープンスペースの臨機応変な活用、緊急車両の動線を確保する園路が計画されている。

3.市民とともに育てつづける公園
(1)整備

「市民とともに育てつづける公園」の理念のもと、マニュアルに沿ったハード整備を重視する画一的な公園や、全てを作り上げてから完成後に市民が利用する従来型の公園づくりではなく、市民が主体となるソフト活動を重視し、構想段階から市民が参画することによって、社会状況やニーズに合わせて変化させていく「ハーフメイド」エリアを設定し、計画段階から将来にわたって市民とともに育てていく、成長する公園づくりに取り組んでいる。                      エリアごとに「整備レベル」を設定した上で、プロジェクトを展開している。整備の最終イメージまでを完成させるエリアは「フルメイド」、空間の骨格となる基盤整備《地形造成や各種インフラ等》を行い、歴史的空間づくりならびに防災空間づくりを踏まえつつ、時代やニーズに合わせ、公園づくりを進めるエリアは「ハーフメイド」としている。

(2)「市民とともに育てつづける公園」の運営

1)プラットフォームの役割
市民や行政、学識経験者など、公園に関わる多様な人々が同じ場に集い、ともに公園の魅力を高める内容について考え、実践するための、公園運営における意見交換の場や活動の母体となるプラットフォームの設置を予定している。
2)公園運営の展開イメージ
平成26(2014)年度以降、市民が主体となって目標像の実現に向けた取り組みや活動を模索し試行する「試行期(1~2年後)」、試行期の取り組みを継続しつつ、運営の組織形態やルールをつくる「立上げ期(3~4年後)」、公園内で活動を開始する「初動期(5年後~)」としている。

展開イメージ

4.市民活動プロジェクト

「市民とともに育てつづける公園」のコンセプトに基づいて、計画段階から将来にわたって、市民と一緒に考えて公園をつくり育て、また開園後も「活動」やニーズに合わせて成長させていく公園づくりを目指すためにプロジェクトを実施している。平成26(2014)年度の立上げの際は、40人の募集に対して61人の応募があった。また、当初からアドバイザーとして大阪府立大学の武田重昭助教( 造園)が協力している。活動場所は、公園計画地や市役所会議室である。公園計画地では、
公園内の活動場所として工事現場の会議室も使用できる体制が整っている。
平成26(2014)年度からスタートし、公園の「シロウト」だが「生活の達人」であり、高槻が好きだという地域愛を持つ市民が参加している。参加者の年齢層は若く、子育て世代の参加が目立つ。公園についてはゼロから学びながら、公園で「やりたいこと」を列挙し、それを元に、「歴史を学び体験しよう!」、「防災力を高めよう!」、「自然とふれあおう!」、「遊びを考えよう!」、「公園で健康になろう!」、「公園を知ってもらおう!」の6つに区分されたグループに分かれて、グループワークが展開されている。
回を追うごとにグループとしても成長がみられ、メンバーだけではなく一般市民も交えた活動を実施するほか、当該プロジェクトの運営体制について自ら検討している。活動内容は、古代米の栽培や自然観察のほか、パークヨガや子どもの昔遊びなど様々である。広報グループと歴史グループが協力して公園のパンフレット制作などグループ間の連携も図られるようになってきている。

活動紹介と活動内容

こうした活動成果は、広報グループによるfacebookでの発信のほか、高槻市の広報誌やホームページ、市民活動プロジェクトNEWS( 高槻市安満遺跡公園整備室制作)としても配布し広く周知に努めている。
平成28(2016)年度の活動スケジュールは、新規参加の方は公園についての基礎的な知識を学ぶ講座( 全5回)を終了後、現在のメンバーと合流して試行的に通年活動する。活動内容はメンバー全員が集まる「全体会議」(年5回)で共有し、別途、グループの代表が参加する「リーダー会」(年6回)にて、活動の調整や自らの組織化に向けた検討などを行っている。平成28(2016)年度の募集概要は、応募条件として、①公園の理念及び目標像に賛同できる方、②講座を受講できる方、③全体会議や試行活動に積極に参加できる方を全て満たす方とし、募集人数は20人、参加費用は無料( 実費負担あり、ボランティア保険(約300円)は要加入)、活動場所は公園計画地・市役所会議室の一部などとなっている。なお、平成29(2017)年3月に開催された全体会議で市民活動プロジェクトの組織化が決定され、( 仮称)安満人倶楽部( あまんどくらぶ)として平成29(2017)年4月から立ち上がる予定である。
市民活動プロジェクトへの高槻市の関わり方は、活動場所や意見調整、アドバイスなどお手伝いに徹し、金銭的な支援はなく材料や消耗品の提供のみである。材料については行政内での不用品の供出や本公園のコンセプトに賛同する市民からの提供が中心である。こうした姿勢が市民活動プロジェクトの自発的で活発な活動に繋がっていると思われる。
こうした活動内容は公園の計画・設計にも反映されており、整備構想時にはなかった「せせらぎ」や「土広場」、「ステージ」、「水田表現」が計画図に追加されている。

5.公園経営
(1)基本的な考え方

・資金循環による相乗効果を目指す
「公園を経営する」の観点から、魅力的な市民サービスや多様な資金調達により、管理・運営や市民活動など、公園利用者の満足度を高めるための利用者サービスに還元できる仕組みづくりを行う予定である。

公園経営概念図

(2)考えられる仕組み(案)

魅力的な市民サービスや資金循環による相乗効果を目指す資金調達については、民間によるサービス施設、寄付・基金、パートナーシップ、ネーミングライツ、広告、有料プログラムなどの仕組みづくりを通じた展開の可能性を想定している。

(3)実際の取り組み

1)民間活力の導入
公園の管理事務所や市民活動の拠点となる「パークセンター」と「全天候型子どもの遊び施設」の複合施設の建設を予定している。全天候型子どもの遊び施設について、民間事業者の自己資金や優れたノウハウを活用して、魅力的なサービスの提供や運営費の縮減を図るために、サウンディング型市場調査を経て、都市公園法上の公園施設管理許可に基づいて管理運営を行う事業者を募集した。建物躯体は高槻市が整備し、施設に関して事業者が必要とする内装・設備・外構等の工事は事業者の負担・施工である。募集の結果、「株式会社ボーネルンド」が選定された。主な提案内容は、子どもの各年代に合わせた、身体と感性を育む多様なあそびの環境の提供、親子のあそびをサポートするプレイリーダーの配置、隣接する公園敷地での自然素材( 水、土、植物など)を使った屋外遊び、市民無料開放デーの設定や高槻市の進める子育て支援施策との連携、管理許可使用料の提案額は約年1,400万円/ 年( 屋内14,000円/㎡× 840㎡ + 屋外5,000円/㎡× 490㎡、募集時条件:屋内12,000
円/㎡以上、屋外4,000円/㎡以上)であった。今後は、高槻市と事業者で協議を行い、平成31(2019)年に予定している公園の一次開園にあわせた事業者による運営開始を目指している。そのほか、公園の運営管理や軽飲食店( カフェ)の設置に向けたサウンディング型市場調査も実施している。
2)ふるさと納税制度の活用
ふるさと納税とは、自分の選んだ自治体に寄附を行った場合に、寄附額のうち2,000円を超える部分について、所得税と住民税から原則として全額が控除される制度である。高槻市では、ふるさと納税の使途を選択できるようにしており、選択肢として「安満遺跡公園の運営に関する事業」がある。

まとめ

本公園は、従来型の管理する資産から経営する資産として展開することで市民共有の財産として高槻市の地域活性化に貢献すると思われる。特にテーマ型コミュニティである市民活動プロジェクトによる市民参画を通して、愛着を持った市民とともに育てつづける公園となることを期待したい。

取材協力:高槻市安満遺跡公園整備室

 

 

 

 

 

 

 

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