有馬富士公園における住民参画型公園運営

有馬富士公園

カテゴリー:地域活性化・コミュニティ 市民参画

有馬富士公園 写真

施設概要

所在地 兵庫県三田市
開設 平成13年4月29日
面積 175.2ha
公園種別 広域公園
設置・管理者 兵庫県

兵庫県立有馬富士公園は、2001年に開園した175.2haの広域公園で、兵庫県の都市公園としては住民参画型の公園運営を導入した最初の事例です。住民参画型運営の基盤として有馬富士公園運営・計画協議会を設置しています。メンバーは、住民、兵庫県、公益財団法人兵庫県園芸・公園協会、三田市などの他、近郊にある兵庫県立人と自然の博物館が加わっており、コーディネーター役を担っています。運営参画のきっかけ、受け皿として住民グループが主体的に企画・運営する夢プログラムというしくみを導入しています。

詳細

1.兵庫県立有馬富士公園について

  兵庫県三田市にある有馬富士公園は、2001年4月29日にオープンしました。2013年3月までに約776万人が訪れており人気の高い公園といえます。

  開園2年前の1999年度に策定された有馬富士公園運営計画では、住民参画型の公園運営をめざし、有馬富士運営・計画協議会(協議会)の設置が提案され、公募によって選ばれた住民、学識経験者、兵庫県、財団法人兵庫県園芸・公園協会、兵庫県教育委員会、三田市、三田市教育委員会、兵庫県立人と自然の博物館(ひとはく)のメンバーで設立されました。協議会の下には、運営関連を担当するコーディネーション部会と計画関連を担当する場所づくり部会が設置されています。ひとはくメンバーは、協議会会長、協議会メンバーやコーディネーション部会長として関わっています。

2.開園前のしくみづくり
(1)最初にじっくり学習・共有

  有馬富士公園では、開園前から住民参画型の公園運営をめざすという方針があり研究会等が行われました。同時並行で開園の約1年前から学習センターの若いスタッフ、NPO法人 人と自然の会事務局長、ひとはくの研究員というメンバーでボランティア養成のための勉強会が始まりました。学習センターのことだけ考えるのではなく、公園全体のことを話し合いました。住民参画とは? 本当に必要か?という根本的課題から始めました。ひとはくのボランティア養成講座から生まれNPO法人に成長した人と自然の会からは、ひとはくスタッフとの信頼関係が重要であったこと、ボランティアの主体性が重要であったことなどを聞きました。「お手伝い」ではなく自らの意思で活動する、信頼関係を育めるしくみ…これを実現するためにはどんな形がよいだろうと考えました。

(2)住民が参加しようと思うきっかけづくりから

  住民が公園運営に関わろうとするには最初のハードルが高いものです。理屈ではなく自然に楽しく公園のゲストからホストに変身できるしくみを作り出すことが必要でした。三田市には元気な住民グループが多く存在し顔見知りでもあったことが、住民グループが企画から運営まで行う夢プログラムというしくみをもつことにつながりました。現在は約30のグループが夢プログラムを実施して年間延べ約5万人の参加者を楽しませています。三田市ではこのような形をとりましたが、地域のコミュニティのありようによってしくみは異なるでしょう。担い手の顔がみえることが重要です。住民が参加しようと思うきっかけづくりには、住民の主体性を重視するしくみであるということが重要なポイントです。

3.運営上のポイント
(1)すべては人づくり

  夢プログラムは、サポートするコーディネーター、実施する住民グループ、双方にとって学習の連続でした。コーディネーターは実施状況や住民グループからの声をきいて、手続き、ルール等々の改善を繰り返し、他機関との調整も重ねます。また、多くの人々に夢プログラムの趣旨を伝え、反論にも応えて住民参画事業の意義をかみしめます。かたや住民グループはプログラム実施の回数を重ねることで公園に関する知識を豊かにし、技術やサービスを向上させ、プログラムの内容は充実していきます。さらに、自分たちで企画・運営したプログラムなだけに、参加する人々の喜びの反応で充実感を得ることになります。公園がより身近な存在に変化しています。主体的に活動する住民グループと、住民の主体性を尊重し、主体性を育てながらサポートするコーディネーターという役割分担が、あるべきパートナーシップにつながっています。住民参画型といわれるプログラムをみただけでは、住民の主体性や人づくりを重視したものかどうかがわかりません。公園側の目標設定、取り組み方法にかかっています。

(2)住民と職員の”Face to Face”の関係づくり

  有馬富士公園のパークセンターには、正規職員であるコーディネーターが2人います。コーディネーターのところには、夢プログラムを実施しているグループの人が気軽に訪れ、何かと話をしています。そんな状況がパークセンターでは当たり前になっていて、コーディネーターも適当に仕事をしながら聞いています。その適当さにむしろ親密さを感じます。住民は気分を害した様子ではありません。住民にはコーディネーター個人との関係ができているのです。「よい公園にしたい」という目標を共有している仲間なのです。このような信頼関係がさまざまな事情を好転させます。信頼関係をつくるには、住民とコーディネーターとの役割分担を明確にした協働作業しかありません。

(3)実践しながらかえたルール、手続き‥

  夢プログラムを実施するグループには、企画書や報告書の提出、年に1回の発表会への参加が義務付けられています。現場にいるコーディネーターは住民から手続きに対する不満を聞いたり、実施状況をみたりしてそれらの方法や書類等を改善することを繰り返してきました。米づくりなど想定外の活動も始まり必要なルールや手続きなども増えました。それらの書類の束をみてコーディネーターの足跡をみた感がありました。このような手続きやルールはとかく住民には嫌がられ、「めんどうくさい」「信じてないのか」「硬いなあ」というつらくなる反応がかえってきます。コーディネーターも好きでつくったわけではなく、みんなで利用するには必要だったのです。そのような手続きを真摯に受け止め、こちらの苦労をねぎらってくれる住民も多く、そのおかげでコーディネーターは元気を取り戻します。

(4)何度も何度も説明する”住民主体”

  住民グループによる自主企画・運営プログラムという形は理解しにくいものです。「資金的援助がないなんて間違っている。タダで住民を使うのか」「自分たちで全部やるのか」「当日の運営を手伝ってほしい」といった声は多くあります。なぜ、自主企画・運営なのか、主体的に取り組む意義、楽しさを理解してもらう必要があります。一度説明してもわかってもらえないことが多く、うるさいなあという相手の顔をみながら何度も説明することになります。単に施設利用が無料になると聞いて夢プログラムを実施するグループもあり、プログラムが増えることはうれしくても少し残念な複雑な気分を味わうことになります。

(5)協議会という任意組織

  協議会は有馬富士公園の運営に関わる関係機関が集まってつくっている任意組織で予算をもっているわけではありません。その理解は関係者によってさまざまで「協議会は予算をもたない任意組織だから何の決定権もない」という人もいれば、「協議会でオーソライズしてもらったらできる」と利用してくれる人もいます。協議会では、現場に直結した場所づくり部会とコーディネーション部会からの提案を受けメンバーがアドバイスをして、利用者のためにいいことであれば「やろう」ということになります。ある行政の担当者が「協議会のおかげで現場担当者の提案が実現する可能性が高まった。従来なら担当者からあげてもさまざまな事情で却下されることが多かった。現場から直接提案でき、関係者が対等に議論できる、協議会のような場があることの意義は大きい」と話していました。協議会の意義を再認識できました。

(6)みんなで何でもできる公園

  ある日、スケボーをやりたいというグループがあり、コーディネーション部会で検討をしました。「スケボーが飛んで来園者にあたったらどうするのか。」という意見に対して、「安全を確保するためのルールをそのグループといっしょにつくろう」「簡単に禁止するのなら、これまでの公園と同じではないか。そういうときに住民と検討することが重要ではないか」とさまざまな意見が出ました。結局「何かあったときに責任がとれるのか」ということに応えられず実現しませんでした。何かあったときに多くが行政の責任になるという中で、住民が自由に使える公園づくりは難しいと感じました。公共空間でいろいろなことができるようにするには行政のしくみや対応だけが課題なのではなく、住民も権利といっしょに責任をもつ感覚が徐々に育つことが求められているのでしょう。

4.多彩な夢プログラム

  夢プログラムは実に多彩で、単なる事業ではなく、有馬富士公園らしい文化をつくりだしているように感じられます。同じ場所を利用するためさまざまな事情に詳しくなり、来園者に説明するために独自に観察・学習も重ねることになります。その一部を写真で紹介します。

5.将来へ
(1)若者へ

  2006年から毎年「有馬富士公園公開セミナー」という事業を高校生や大学生を対象に行っています。協議会メンバーから公園の施設・しくみを学び、夢プログラム・グループのリーダーからその思いや実践を学び、学生は夢プログラムを実践します。先輩から学ぶ実践は好評です。例えば、将来、幼稚園の先生になりたい学生が子供を対象としたプログラムを行うリーダーからの「子供から目を離したらだめ」「話は子供の目線で」といった説得力あるアドバイスを真剣なまなざしで聞いています。大学生からは運営に関わる提案も飛び出し、よい刺激となります。若者たちは、いつかどこかの現場でいい先輩からの実践の学びを活かしてくれるであろうと期待しています。

(2)まちづくりへ

  有馬富士公園における「みんなで何でもできる公園をつくろう」としたプロセスは人づくりそのものでした。プログラムを実践できる技術、来園者とのコミュニケーション力などを習得しただけでなく、公園という公共の場で仲間や施設職員と協力し自律したプログラム運営を経験したことが大きいと考えています。この自律心を育てるプロセスは、まちづくりでも重要なポイントです。今後の公園運営はまちづくりのひとコマとして地域で活かすべきではないかと考えます。夢プログラムの企画・運営を通じて住民は、①仲間や施設職員と小さな合意形成や意思決定 ②メンバー間の役割分担 ③広報など情報の伝達・共有 ④自己実現などを体験しています。これらのノウハウはまちづくりにも活用できるものです。公園は量よりも質が問われ、役割も多様化した現在、住民の参加は必須であり、公園をまちづくりに活用できる地域の資源として捉え、その運営、参加と支援のあり方を考えることが重要です。

 

兵庫県立人と自然の博物館 研究員 藤本真里

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