「樹木点検員」制度に基づく公園樹木の点検と診断

東京都立善福寺公園ほか都立公園

カテゴリー:安全対策

東京都立善福寺公園ほか都立公園 写真

施設概要

所在地 東京都杉並区善福寺二・三丁目
開設 昭和36(1961)年6月16日
面積 7.9ha
公園種別 風致公園
設置・管理者 東京都・公益財団法人東京都公園協会

杉並区の住宅地に立地し、従前は神田川の水源のひとつともなっていた湧水池である善福寺池を中心とした公園である。昭和初期には風致地区として整備が進み、樹木の植栽もこの頃から行われている。開園面積は約7.9ha であり、水面がこのうちの半分程度を占め、子供広場やあそび場(遊具)、ゲートボール場、ボート乗り場などが整備されている。池の周りは小高い樹木に覆われた閑静な空間となっており、動植物が豊富なことでも知られている。

詳細

1. 取り組みの背景
(1)東京都の公園緑地等の状況

1)公園緑地と樹木の状況
東京都が整備・管理する都市公園の面積は平成26(2014)年度には2,000ha を越えている。東京オリンピックの開催と公害対策を契機とした樹木植栽が進み、平成272015)年に発表された「世界の暮らしやすい都市ランキング」(『MONOCLEモノクル』2015)で世界一位とされた要因のひとつともなっている。一方で、半数近くが開園以来40年以上を経過しており、ここに植栽されている樹木の多くが、人間で言えば壮年~ 老齢期を迎えつつあると言える。街路樹の大径木調査で、要定期診断とされた樹木が2万本以上あり、公園でも相当数の高齢樹木が分布していると思われる。危険な樹木などの発見や随時の伐採、剪定等の措置には従来も取り組まれてきたが、それでも倒木等の事故は毎年のように発生していた)。
2)東京都公園協会の状況
( 公財)東京都公園協会の職員数は約680名で、樹木医の資格を持つ職員が17名いる。都立公園等の指定管理事業は公益事業のひとつとして取り組まれており、平成27(2015)年4月1日現在で、61ヶ所の公園、庭園、霊園等の管理にあたっている。

(2)「元気な樹木づくり」への取り組み

東京都では、公園や道路の樹木の健全育成を図るための技術的検討を行うことを目的として、平成16(2004)年に「元気な樹木づくりプロジェクトチーム」を立ち上げた。これには、東京都公園協会等の職員も参加している。この結果作成されたのが「元気な樹木づくりの手引き」である。この特徴として、日常管理における樹木の点検作業をマニュアル化し、樹木点検票などを作成し、樹木診断の基準を明確化したところなどがある。東
京都公園協会の「樹木点検員制度」は、この実践的取り組みとなる。

2. 樹木点検員制度
(1)制度の仕組み

樹木点検員制度は、東京都の認定を受けて取り組まれている。制度の趣旨は、樹木の健全育成による公園利用者の安全の確保のほか、景観を守り、歴史や文化的な価値の樹木を保全することである。このため「①危険につながるおそれのある樹木の早期発見と健全育成」「②職員の樹木に対する知識や技術、意識の向上」「③樹木医へのきっかけと協会専門技術者の育成」の3点を目指し、樹木点検員養成研修が行われている。
研修事業は平成22(2010)年度から取り組まれ、現在は2日間の研修が行われている。研修は都立公園内で毎年1回行われ、平成27(2015)年度は神代植物園と戸山公園で実施している。講師は、樹木医の資格を持つ協会職員が務め、この2日間の研修を受講した人を「樹木点検員」として認定している。樹木医と造園施工管理技士1級を保有する人は研修を受けずとも認定しているが、希望により受講することもできる。

研修カリキュラム 
日程 講座内容
1日目 午前 樹木についての講座

樹木点検講座

午後 樹木点検演習
2日目 全日 樹木点検実務(樹木診断演習
(2)認定状況

平成22(2010)年度以降の認定者数は累計で254名である。協会では最終的に1公園に2名の樹木点検員を配置できることを目指している。また平成26(2014)年度からはフォローアップ研修も開始して、さらに、公園等で適宜OJTを行っている。

3. 樹木点検
(1)点検業務

1)対象木の選定
点検樹木の選定では、公園利用者等の安全確保の視点から、園路沿いや良く利用される園地内にある樹木、民家に近い樹木などを重視し、人が立ち入らない場所の樹木は対象外としている。合わせて、景観形成上や地域の歴史上重要な巨木・古木・名木を対象としている。この結果、都立公園内では樹木数は1,000~1,200本程度となり、多い公園では100本以上となる。これら全てに通し番号のシールが貼られている。
2)定期点検
点検は毎年4回実施されている。特に冬を越した5月の点検は、芽吹きの状態なども観察できるため、重視されている。点検は「公園樹木点検票」に沿って、根本から幹、枝へと下から上への順に、樹木全体を観察するように行う。このほかに、盛土の状況や日照などの生育環境も確認している。2回目以降は、特に異常や変化がなければ、調査日時のみの記入としている。点検対象木以外であっても、日常の巡視などで異常が発見された場合は、随時点検対象木に追加している。この定期点検の結果は、適宜「樹木点検総括表」に記載される。

(2)診断

定期点検の結果を受けて、被害の著しい樹木や地域の人々の関心が高い樹木、景観上重要な樹木などについては、樹木医が点検員と一緒に詳細な診断にあたっている。樹木診断では、まず外観診断によって樹木の状態を確認し、必要に応じて専用の機材を使った精密診断や根茎診断を実施している。この樹木診断には、同行する点検員の能力向上の役割もある。樹木点検や診断の結果は経過観察とされる樹木が多く、要措置木とされるのは5%程度である。
樹木診断の結果、伐採と判定した樹木は、公園利用者や周辺住民等に周知の上で処理するが、特に関心が深いと思われる花木などは、公開樹木診断を実施している。これは、公園管理者が一方的に木を切るのではなく、市民の理解を得て伐採に取り組むものである。参加者に対しては、通常の樹木診断の手順に沿って樹木医が腐朽の状況や倒木の危険性などを丁寧に説明し、参加者の理解を得て後日に伐採を行っている。

4. 善福寺公園での樹木点検等への取り組み
(1)利用と管理の状況

善福寺公園の利用者数は年間約100万人と推計され、近隣住民の散策や健康運動、子どもの遊びなどの日常利用が多い。サクラの名所でもあり、花見のシーズンは混雑するほか野鳥等、貴重な生き物や植物などの観察などに訪れる人もいる。公園内にサービスセンターが置かれ、管理職員が常駐している。花壇管理や樹木の剪定、自然保護活動などを行う公園ボランティアも活動している。

(2)樹木点検

古くから整備が行われた公園であるため、樹木の老齢化も進み、点検対象木は30数本ある。サービスセンターに樹木点検員の資格を有するスタッフが3名おり、日常点検にあたっている。最も重視する5月の点検は、30数本の樹木をチェックし、記録を整理するのに2日を要する。

点検樹木位置図

(3)公開樹木診断の実施

善福寺公園は周辺住民に親しまれている公園であり、中には住民達の手で植えられた樹木もあったりするため、平成26(2014)年9月に通算して4回目の「公開樹木診断」を実施した。実施に際し、「樹木医による公開樹木診断のお知らせ」というチラシを作成し、ホームページへの掲載や公園サービスセンターでの配布を行った。
樹木医3名を含む協会職員10名が参加し、一般市民の参加は11名であった。樹勢の衰えた樹木や病虫害を受けた樹木などの10本について、樹木医が診断と説明を行った。2月の大雪で半倒木したコブシは、今後倒木のおそれはあるが、当公園で最大のコブシとして貴重なことから、支柱を立て、日照を妨げている周囲のケヤキの枝を落とすことになった。参加者からは「樹木のことが良く理解できた」「危険な樹木が良く分かった」「サクラのキクイムシ被害が進行しているのでびっくりした」などの感想があり、公園の安全管理への理解も進んだと思われる。

5. 樹木点検の成果

平成23(2011)年度には749本あった倒木が、同25(2013)年度は120本前後と、大幅に減少している。なお、平成23(2011)年は戦後最大級の台風15号の被害が多数を占める。この結果、公園利用者の安全確保は無論のこと、良好な緑景観の保全にも寄与し、公開診断等を通じて、公園利用者等の樹木や公園管理への関心も高まった。

今後の展開
(1)樹木点検員養成研修の拡大

研修は平成24(2012)年度から都内の自治体職員にも開放している。この参加枠は30名程度とし、各区市町村1名までの参加とし、受講修了者には修了証を発行している。また、自治体からの要望に応じ、平成25(2013)年度から有料で「出前講座」の形での養成講習も行っている。カリキュラムの内容は養成講習とほぼ同じであるが、要望に応じて、街路樹管理などを加えることがある。これまでに4区2市で実施し、市民ボランティアの養成に活用された例もある。

(2)その他の取り組み

協会が指定管理を行う公園でのマツ枯れが拡大していたため、この対策の一環として、公園でのマツ枯れ調査や、周辺自治体との情報交換などを行っている。こうした結果をとりまとめ、「マツが危ない」というパンフレットを作成・配布している。
都内には江戸園芸に由来する桜の栽培品種が多数ある。これらを将来に継承するため、生育と病虫害の状況調査や研究機関と連携したクローンの栽培などに取り組んでいる。

 

取材協力(平成27年):(公財)東京都公園協会

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