地域主導で誕生した防災公園

東糀谷防災公園

カテゴリー:市民参画 防災・減災

東糀谷防災公園 写真

施設概要

所在地 東京都大田区
開設 平成22年4月1日
面積 2.8ha
公園種別 近隣公園
設置・管理者 大田区

大田区糀谷地区は、羽田空港に隣接した、住宅・工場が混在する活気ある地域です。ここに、住民主導で立案した防災公園が誕生しました。公園は住民のアイディアから、①補完避難所となる多目的広場、②マンホール式災害用トイレ、③防災訓練・緊急車両基地に使用できる防災広場、④災害用備蓄倉庫、⑤40t耐震性防火貯水槽、⑥防火用水を兼ねたビオトープ池、⑦かまどベンチ・スツール、⑧コミュニティ農園など、行政からは出てこないようなさまざまな機能が盛り込まれました。東日本大震災の発生を契機に、地域防災のありかたについて一つの実例となる公園です。

詳細

1.ワークショップにより防災公園建設が決定

  糀谷地区は大田区の南東に位置し、羽田空港に隣接した、住宅・工場が混在する活気ある地域です。平成6年、地域に大きな話題が持ち上がりました。東糀谷四丁目の約2.8ヘクタールの広大な空地を、東京都が鮫洲運転免許試験場の移転候補地として購入したのです。かつて製鉄所だったこの空地をめぐって、地元は大騒動となりました。

  地域の自治会などを中心とした「糀谷地区再開発協議会」は、移転に伴う交通量の増加、大気汚染の発生などを心配し、試験場の移転反対を決議しました。その後足かけ10年間、地域住民は警視庁との話し合いや都議会・区議会への陳情を続け、平成16年、東京都の財政難など様々な理由により、移転計画は白紙撤回となりました。その間、候補地は10年以上空地として放置され、周辺住民はゴミ投棄などの環境悪化を心配していました。

  そして平成18年、東京都は地域の町会長会議において、この土地を公共のために使用するならば大田区への土地売却も可能との意向を示しました。これを聞いた糀谷地区再開発協議会は、大田区へ土地購入を要望、区は検討の結果公園用地としての購入を決定、平成19年3月、この土地を購入しました。

  大田区は公園の基本計画策定にあたり、地域住民の要望を最大限に尊重する方針で、平成19年、地元自治会を主体としたワークショップを合計4回開催しました。

  昔から糀谷地区は非常に防災意識の高いまちとして定評があり、糀谷地区自治会連合会はこの空地を使用し、地域住民、警察、消防、消防団合同で数千人規模の防災訓練を何回も開催していました。この土地に対する地域の意見は、ワークショップを開催する前から空地を「防災に役立つ公園」にしたいとの意向でまとまっていました。大田区は、地域住民を主体としたワークショップの開催により、地域の意見を集約し、基本計画を策定することとしました。

  ワークショップは、糀谷地区の各自治会から毎回15名前後の代表が参加し、防災公園建設のために活発な検討を行いました。ワークショップの第1回目は、先進事例調査のため、平成16年に完成した千葉県市川市大洲防災公園の視察を行いました。第2回目は、新潟中越地震に派遣された区担当者の体験報告、神戸市防災センターの視察報告、また、全員でどんな公園にしたいか、イメージを出し合い、参加者からさまざまな意見が提案されました。第3回目は第2回目で出た具体的な公園イメージをまとめ、公園平面図を2案作成し、図上にさまざまな施設を置き込みました。第4回目は、公園の平常時の利用プラン、災害時の利用プランを作成し、2案の平面図を最終的に1つにまとめた基本計画図を完成させ、意見交換を行いました。ワークショップは司会進行、資料提供、図面作成は区が行いましたが、公園の基本計画案はほぼ地域の参加者が立案したものから採用しました。このような地域主導の計画案策定も、大田区では過去に例の少ない手法でした。

2.さまざまな防災機能を持った東糀谷防災公園

  東糀谷防災公園は、地域住民のアイディアでさまざまな防災機能が整備されました。

①災害時に補完避難所となる多目的広場

  公園中央に面積約8,000㎡の多目的広場があり、平常時は子供たちがのびのび遊べる芝生地です。災害時は、公園管理棟に備蓄予定の居住用テント(エマージェンシーシェルター)を200張り設営することで、最大2,400名が避難できる広さを確保しています。

  大田区の地域防災計画(平成22年修正)では、区内91箇所の小中学校等を避難所として指定しています。東糀谷防災公園はそれらが不足した場合の「補完避難所」として位置付けられており、公園としては初めて指定した避難所となります。

②断水時でも利用できるマンホール式災害用トイレ

  多目的広場の周囲に新たに井戸を3箇所掘削し、それぞれに井戸水を利用したマンホール式災害用トイレを各10基、合計30基を設置しました。トイレは口径400㎜の塩ビ管を横方向に埋設し、常に水が入っています。災害時は地表面にある各10箇所のマンホール上にテントを設営し、災害用トイレとします。埋設管が満水となった場合、末端の仕切弁を手動で引き上げ、汚水を下水管へ導くようになっています。東京都下水道局の協力で、下水道本管に至る経路までの下水道管の耐震化も完了しました。井戸は地下35mまで掘削した結果、安定した水量を確保できました。井戸水は海に近いせいか塩水で、残念ながら災害トイレ用以外の飲料水、散水等には使用できませんでした。

③平常時は防災訓練場所、災害時は緊急車両基地に使用できる防災広場

  北側道路に面し、面積約2,000㎡のインターロッキングブロックで舗装した防災広場があります。舗装は総厚が350mmあり、消防自動車などの重車両の進入が可能です。

  平常時は、地域のイベントなど多目的に使用できるほか、消防団のポンプ操法訓練、消防ポンプ車を使用した防災訓練などに使用します。災害時には、緊急車両、災害復旧車両など重車両の基地としての使用が可能です。広場の照明は、省エネも考慮してLED照明灯を8基設置しました。

④災害用備蓄倉庫と多目的室を合築した公園管理棟

  公園北西部には、延べ床面積484㎡の公園管理棟があります。平常時には体育室、会議室として一般に貸し出す多目的室と、居住用テント、災害用トイレテント、毛布、飲料水などを備蓄する倉庫が合築されています。災害時には、多目的室は避難所本部としての活用を想定しており、園内への放送設備も配備しています。また、屋上に太陽光発電装置を設置し、管理棟で通常使用する電気は太陽光でまかない、余った電力は東京電力へ売却しています。停電時も、昼間はわずかですが電気の供給が可能です。管理棟は1tの水道水を備蓄できる緊急用給水タンクも設置しています。

⑤40t耐震性防火貯水槽

  火災発生時に使用する消火用水を確保するため、地下に容量40tの耐震性防火貯水槽を2箇所設置しています。公園西側が木造住宅密集地であるため、公園の北西、南西入口付近の地下に埋設し、消防団ポンプ操法訓練にも利用されています。

⑥防火用水を兼ねたビオトープ池

  多目的広場の芝生に降った雨水を暗渠管で集め、貯水して防火用水とする溜池を設けています。水量は32tが貯水でき、池の中にはヒメガマ、マコモなどの水生植物を植栽しました。平常時には、トンボなどの生物がやってくるビオトープ池として、地域の自然環境保全の場として一役買っています。

⑦かまどベンチ、かまどスツール

  災害時に公園で炊き出しを行うことを想定して、平常時はベンチ、スツールとして利用し、災害時はかまどとして利用できるかまどベンチを3基、かまどスツールを2基、休憩所に設置しています。

⑧地域の子供たちが体験学習できるコミュニティ農園

  地域の子供たちが土にふれあう機会がほしいという要望を受け、体験学習施設として面積約893㎡のコミュニティ農園を設けました。現在糀谷地区の小学校2校、保育園5園の子供たちがサツマイモ、ジャガイモ、落花生などを栽培しています。

⑨その他の施設

  他に、だれもが使いやすいユニバーサルデザインを取り入れたトイレを含んだトイレ2箇所、駐車場10台分、水道水を塩素滅菌して循環する流れ、将来はお花見を楽しめるソメイヨシノの植栽、58種類、910株のツツジやサツキの植込みなど、防災機能以外にも充実した施設を設置しています。

3.糀谷地区の防災・コミュニティ拠点の誕生と今後

  東糀谷防災公園は、平成22年3月15日に第1期工事が完成、第2期工事として平成23年3月15日に公園全体が完成しました。現在の利用状況を報告しますと、防災広場は、地域の消防団によるポンプ操法訓練・自治会連合会の防災訓練などに利用されています。また、管理棟の多目的室は、地域の卓球サークルの活動・介護予防活動・健康スポーツ体操・地元企業や自治会の会合などに利用されています。コミュニティ農園は子供たちの土いじりだけでなく、保育園の食育活動として、農園で収穫した作物が活用されています。他には、近隣の高等学校による除草・ゴミ拾いなどのボランティア活動、多目的広場周囲の園路を利用したウォーキングなど、設計段階では考えていなかったさまざまな活動に利用されるようになりました。公園がよく利用されているのは、公園の土地取得、プラン作りまで全てが地域主導で誕生した公園であることに尽きると思います。

  今後の課題としては、①夜間の治安の向上、②海に近いため津波対策などが挙げられます。対策としては、①夜間、日時を設定して警備員による巡回、②建物に潮位計を設置して公園利用者に啓発活動などを行っています。引き続き、これまでと同様に地域の皆さんと話し合いながら、公園の新たな展開を模索していきたいと考えています。

大田区 都市基盤整備部 建設工事課

 

 

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