公園遊具の安全点検と横浜市「公園施設点検マニュアル」の策定・運用

横浜市「公園施設点検マニュアル」

カテゴリー:安全対策 植物・施設管理

横浜市「公園施設点検マニュアル」 写真

施設概要

所在地 横浜市
開設
面積
公園種別
設置・管理者 横浜市

詳細

1. 取り組みの背景と経緯
(1)横浜市の公園及び遊具等の状況

1)公園緑地の状況
2015年8月時点の横浜市内の公園数は、県立公園も含めて2,657ヶ所あり、総面積は,812ha となる。このうち、住区基幹公園は原則として各区の土木事務所で維持管理を行い、都市基幹公園や 特殊公園は北部、南部の公園緑地事務所等が管理を行っている。
また、野球場やプール等の運動施設がある公園と、古民家や里山などの自然・文化体験施設を中心に、指定管理者制度が導入されている。
2)遊具の状況
2014年3月現在の公園遊具数は10,164基である。老朽化等に伴う撤去や新設等もあり、近年はほぼ横ばいで推移している。

(2)遊具管理への取り組みの契機と経緯

1)取り組みの契機
平成19(2007)年頃に全国的に遊具事故が多発し、新聞では、公園が急増した20~30年前に設置された遊具の老朽化時期と重なったためと報道された。従来、横浜市では平成14年(2002)年度に作成された点検マニュアルに基づいて遊具等は点検されていたが、市内でも平成19(2007)年の6月、7月にブランコ等の支柱が倒れて子どもが怪我をする事故が連続して発生し、新聞等でも大きく取り上げられた。連続して発生した事故では、事前の市民からの通報が活かせず、対応が後手に回ったという反省もあり、次のような教訓が得られた。

○不具合情報、点検結果、対応策は必ず1人ではなく、組織的に共有・確認する
○使用禁止措置は、破損した時だけでなく、破損が予測される場合にも実施する
○使用禁止措置をとる場合は、物理的に遊具に立ち入れないようにする
○腐食状況の確認が必要で、倒壊が事故に直結する構造の遊具(1本柱)に注意する

2)取り組みの経緯
事故発生後、都市公園をはじめとする市立保育園や学校、市営住宅等に設置されていた遊具約2万基を対象に緊急点検を実施した。この結果、約2,000基の遊具を使用禁止措置とし、この半数の約1,000基が撤去された。撤去または使用禁止の対象となった遊具で最も多かったのは、スプリング遊具であった( スプリング部の耐用年数が経過していたことによる)。
事故から得られた教訓のほか、従前のマニュアルの問題点も指摘され、新たなマニュアルの策定に取り組むこととなった。

2. 公園施設点検マニュアルの策定
(1)策定の進め方

1)遊具事故対策プロジェクト
平成19(2007)年7月5日の事故発生直後の7月10日に「遊具事故防止対策プロジェクト」を立ち上げた。同プロジェクト設置の目的は次の3点の検討である。

○遊具の維持管理における点検作業及び異常発見時の対応のあり方
○異常発見時の所管課内における連絡体制及び意志決定プロセス
○事故時の関係部局間の連絡体制及び役割

 こうした検討を行うために、遊具の管理や子どもの遊び、まちづくりなどに関係する部局長等の10名をメンバーとしてプロジェクト会議を構成した。プロジェクト内に「遊具点検マニュアル検討作業部会」と「事故時体制検討作業部会」が設置され、担当課職員による検討が進められた。
2)遊具の安全管理に関する検討委員会
 横浜市内で6月、7月と連続して発生した2件の遊具事故を踏まえ、事故の再発防止に向け、安全な遊具のあり方及び安全管理の方法等について第三者の立場から客観的に検討を行うことを目的とし、平成19(2007)年8月から平成20(2008)年5月にかけて「遊具の安全管理に関する検討委員会」が設置された。委員会は、造園、遊具構造、遊具管理、子どもの遊び等を専門とする学識経験者、専門技術者及び利用者代表からなる外部有識者により組織され、5回開催された。委員会では次の3点について検討がなされた。

○安全な遊具のあり方に関すること
○遊具の安全管理の方法に関すること
○遊具点検マニュアルの策定に関すること

遊具事故の発生状況と要因の関係性や、遊具の設置や管理状況等を検証した上で検討が進められ「安全な遊具のあり方に関する提言」がまとめられた。この提言を受け、施設管理者、公園利用者、遊具製造者が一体となった安全管理の仕組みづくりを「横浜型遊具の安全管理」として打ち出した。
また、「横浜市遊具点検マニュアル( 案)」がとりまとめられ「安全な遊具のあり方に関する提言」が出された。
○「安全な遊具のあり方に関する提言」
http://www.city.yokohama.lg.jp/kankyo/park/yuugu/yuugu03.html
http://www.city.yokohama.lg.jp/kankyo/park/yuugu/pdf/teigen.pdf

3)遊具点検マニュアル(案)
「遊具点検マニュアル( 案)」では、これまで不明確であった「①不具合発生後の報告・連絡体制」「②使用禁止措置の方法」「③点検の際のチェックシート」の3点について、統一的な見解を示した。
マニュアルの特徴は次のとおりである。

○「異常」の判断基準の明確化
・「著しい」「異音」などといった抽象的な表現を、出来るだけ具体的に置き換えた。
○異常時の措置方法の具体化
・点検後の対応について、わかりやすくフローで示した。
○点検ポイントの明示
・外観、表面、強度、周辺環境など、どこをどう見れば良いかを遊具ごとに示した。
○遊具ごとのチェックシートの作成
・文章で記入するのではなく、各項目のチェックで済むような方式とした。
○部材交換等の目安の作成
・耐用年数の考え方を示し、これが近づくとチェックが必要な事項も記した。
○資料のビジュアル化
 遊具の破損や劣化状況の写真を多用するなど、ビジュアル化に務めた。
(2)公園施設点検マニュアル

1)マニュアルの構成と内容
前記の「遊具点検マニュアル(案)」に、四阿やパーゴラ、園路、植栽等の公園施設を加え、平成23(2011)年4月に「横浜市公園施設点検マニュアル」が策定された。マニュアルの目次構成は次の1~10のとおりである。

1. 本マニュアルの位置づけ
2. 適用範囲
3. 点検の目的と種類
4. 点検作業のポイント
5. 点検作業を行う際の留意点
6. 点検後の措置
7. 施設の点検ポイント
8. 点検チェックシート
9. 補足説明
10. 様式類

マニュアルのポイントとしては、「3. 点検の目的と種類」の中で、点検の体制は次のように示されている。

「6. 点検後の措置」では、点検時に行う措置と点検後に行う業務とに分けて、フローで説明されている。また、具体的な使用措置の事例を、写真を添えて説明している。
「7. 施設の点検ポイント」では、点検ポイントと点検チェックシートは分けて整理されている。

3. 公園施設点検マニュアルの運用等
(1)講習会の開催

新規に遊具等の点検に従事する市職員や指定管理者を対象に、点検マニュアルに基づき点検を実施するための講習会をほぼ毎年開催している。講習会は児童遊園地等で開催され、施設点検マニュアルに基づいた座学と、実際の遊具等を使った点検実習が半日程度をかけて行われる。
講師は市職員で、一部を外部の専門家に依頼している。

(2)一般への普及と啓発

上記の講習会は、担当職員の技術や知識の向上を目的としているが、公園の見守り効果も期待して、公園で活動する愛護会や周辺住民を対象に講習会を開催している。
また、遊具での安全な遊び方を啓発するために「公園であそぼ ゆうぐであそぼ」というパンフレットを作成し、3歳児検診の際に保護者に配布している。なお、この内容は看板にして公園にも設置している。さらに、小学校や保育園から声がかかり、遊具の点検や使い方の話などをすることもある。

今後の展開

公園施設点検マニュアルは、平成28(2016)年4月に内容の改訂を行い、4月以降は新しいマニュアルで運用を開始している。

横浜市公園施設点検マニュアル【平成28年4月版】http://www.city.yokohama.lg.jp/kankyo/park/yuugu/manual.html

改訂にあたっては、「公園施設の安全点検に係る指針(案)(平成27年4月国土交通省)」及び「都市公園における遊具の安全確保に関する指針( 改訂第2版)( 平成26年6月国土交通省)」の指針等を受けて、点検項目の拡充、見直しを行った。

取材協力(平成27年):横浜市環境創造局公園緑地部公園緑地維持課

 
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