平成28 年熊本地震における公園利用

熊本市内等の都市公園利用実態調査

カテゴリー:防災・減災

熊本市内等の都市公園利用実態調査 写真

施設概要

所在地 熊本市内
開設
面積
公園種別
設置・管理者

[平成28(2016)年熊本地震の概要]
前震日時:平成28(2016)年4 月14 日 21 時26 分
震度:7 地震の規模:M6.5
本震日時:平成28(2016)年4 月16 日 01 時25 分
震度:7 地震の規模:M7.3
範囲:熊本県から大分県までの広い範囲に震央が分布
特長:
・わが国で過去に3 回しか記録されていない「震度7」が2 回続けて発生した。
・前震から1.5 日の間に、震度6 以上が7 回も発生した。
・地震回数が極めて多く、M3.5 以上を観測した回数は内陸・沿岸型地震では近年最多である。
[熊本市の管理する公園]
公 園 数:971 か所
公園面積:684.38ha
代表的な公園:熊本城公園、水前寺江津湖公園、辛島公園など

詳細

1. 平成28(2016)年熊本地震の被災状況

平成29(2017)年1月17日現在、熊本県内での人的被害は死者176人、重軽傷者2,637人である。住家については、前震での被害は軽微であったものの、本震で全壊に至ったという事例が多く、また、木造建物のほか旧耐震基準のRC造建物にも多くの被害が出た。中には地方公共団体の庁舎や指定避難場所が使用不能となったところもあった。
このほか、阿蘇地方では大規模な土石流や地すべりが多数発生し、長さ205mの国道57号阿蘇大橋が落橋する事態となった。

熊本県内の被害状況
※平成29年1月17日16時30分現在 熊本県危機管理防災課発表
被害内容 件数
人的被害 死者 176人
重軽傷者 2,637人
住家被害 181,205人
全壊 8380人
半壊 32,702人
一部損壊 140,123人
2. 公園の被害状況

県内の都市公園の被害状況を熊本県が取りまとめた試算では、県内全体での都市公園の被害は98か所、被害額は293億円に及んだ(平成28(2016)年6月1日熊本県発表)。
その後の災害査定の結果では、県内全体での都市公園は38か所、金額は67億99百万円となった(平成28(2016)年12月28日熊本県発表)。
県内の都市公園で特に被害が目立った公園は、国の文化財に指定されている石垣や建物が多数崩壊した熊本城公園、全天候型グラウンドの天井材が落下するなどした熊本県民総合運動公園、広い範囲で液状化が発生した水前寺江津湖公園などがあげられる。

3. 熊本市内等の都市公園等利用実態調査

平成28(2016)年4月から5月にかけて現地の被災状況や避難地等の利用実態について調査を行った。

(1)公園施設の被害状況

1)熊本城公園( 国特別史跡熊本城跡)
石垣は、崩壊した箇所だけで50か所以上、ズレやふくらみが出た危険箇所も多数あり全体の3割で積み直しが必要であった。城内の場所を問わず崩れており、虎口や門など城郭特有の通路を塞ぐように崩れている箇所もあった。外周部付近では、道路や民有地に向かって落ちているところもあり、応急対策が実施されていた。
重要文化財に指定されている建造物は、倒壊等の被害が大きく基礎となる石垣ごと崩落している建物もあり、今後修復等の取り扱いにおいては技術的な課題になるだろう。
復元建物の被害は、昭和35(1960)年築の天守閣はじめ大きな被害を受けた。比較的近年に「熊本城復元整備計画」に基づいて復元された櫓等の建物にも被害が出ている。
その他、長局櫓前、本丸北側付近、二の丸広場東側などでは、崩壊までは至らない石垣の歪みや崩れ、それらの上部での地割れや陥没等も多く見られた。
2)水前寺江津湖公園、水前寺成趣園
湧水、川、池を生かした熊本市内を代表する公園である。園路舗装、公園橋、地下の水道管などに被害が見られた。水際部で地割れ・沈下が発生しており、これまでに無かった場所から湧水があった。
有料の回遊式庭園の水前寺成趣園では、湧水で普段は満たされている池の大半が、池底が見えるくらいにまで水が枯れていた。
3)その他の公園
その他主な調査対象とした熊本市内の住区基幹公園では、園路舗装の地割れなど、比較的軽微な被害が多く見られた。
また、東屋、便所などの被害が数か所で確認され、隣接住宅などからの擁壁や塀の崩れ込み、落下物などが多かった。
益城町では、多くの公園で地割れ、地盤沈下、液状化などの被害を確認した。

(2)公園の利用状況の概観

第1次調査(直後から緊急段階)では、強い揺れ、余震が続いたため、「とにかく建物から離れたい」という避難者が多数いた。
第2次調査( 緊急から応急段階)では、学校を中心に避難所、支援拠点が開設されているが、公園が拠点となっている様子はあまり見られず、車中泊や車の置き場所として利用されていた。公園に避難していても車で出入りをするため、避難場所としてのまとまりが感じられなかった。
防災施設のうち、よく使われているのは備蓄倉庫や耐震性貯水槽で、かまどベンチやマンホールトイレ、非常用電源はあまり使われていなかった。熊本市の公園には集会所( 老人憩の家等)が整備されているが、利用状況にはバラツキが見られた。
第3次調査( 復旧・復興の段階)を5月19日~21日で実施した。熊本市内では公園を使った避難所は解消されつつあったが、一部の公園では車両やテントでの避難が見られた。その他第1~2次調査で車両やテント避難が見られた数か所の公園では、すでに避難者は滞在していなかった。益城町、御船町では町の中心にある公園が避難場所として使われており、特に益城町総合運動公園では、避難の長期化に向けて避難所を少しでも快適にするための対策工事等が始まっていた。
1)本震朝(4 月16 日)の緊急避難状況
わずかな手荷物だけを持ち「とにかく広い屋外へ」と避難してきた様子で、ベンチや芝生に座り込んで休む人が100人以上いた。また、公園外周の道路には車両避難している人も多数みられた。テントやタープを使っている人は少なく、段ボールやレジャーシート、ブルーシートなどありあわせのもので居場所を作っている人が多かった。
今回の地震の特長とも言える車両避難、車中避難は、近隣以上の規模の公園のほか、規模の小さな街区公園でも数多く見られた。ただし、全く見られない公園もあり、これは、周辺の被害状況、他のオープンスペースの状況、公園の車止めの管理などが複合要因となっていると考えられる。
2)車両避難の状況
※背景図は国土地理院 平成28(2016)年4 月16 日(土)撮影の正射画像を使用

中央区渡鹿公園 :開設面積約1.3ha の近隣公園。野球場に約130台が滞在。備蓄物資の配布や貯水槽からの給水も実施していた。

車両避難の状況(避難あり)

北区楠中央公園 :開設面積約0.8ha の近隣公園。車両避難は見られない。隣接の民間スーパーの駐車場、一時避難場所に指定されている学校に多数滞在していた。

車両避難の状況(避難なし)

3)本震後の公園利用
救援活動の場として
備蓄倉庫をもつ公園では、地域のボランティアらによる炊き出し、給水などが実施された。
公園内集会施設等の活用
公園内の老人憩の家等の集会所は、避難所として多くが使われていた。
震災ごみの仮置き場として
被災した住宅の片づけで発生する震災ごみの仮置き場とされていた。発災から数日後にはゴミの回収が行われていた。
生活支援の場として
上水道が停まっても下水道は流れていたため、公園のトイレに井戸水や雨水を集めて利用していた。また、近隣住民が自主的に運営する支援拠点が開かれていた。市の中心部では広域から集まるボランティアセンターの集合場所や登録場所として使われていた。

4. 公園愛護会・自治会へのヒアリング調査

平成28(2016)年8月に、熊本市内の住区基幹公園等33公園の愛護会長らを対象に、公園緑地関係団体の協力のもと「熊本地震都市公園利用実態共同調査」としてヒアリングを実施した。
(主なヒアリング結果)
・公園内の広場やオープンスペースは、すべての公園で利用されていた。
・駐車場としての利用が多かったが、30台以上のまとまったスペースを必要とするものが多かった。また前震時に車止めを外した公園のほとんどが、自治会長など地元の住民であり、鍵の管理など日常的に地域へ委任や協力を依頼していたため、迅速な公園利用に繋がったと考えられる。
・集会所等の利用では、高齢者や子どもなどの夜間の避難に役立った、日常的な活動があったので避難活動が円滑に進んだ、非常時における施設管理の責任が不明確、といった意見があった。
・問題があったこととして、トイレや給水施設等の不具合・必要性、避難時の雨・寒さ対策の必要性、トイレ利用のマナーやルール、車両避難の長期化、などが挙げられた。
・今後公園利用による災害対応の機能を高めるための留意点として、組織体制の強化、地域コミュニティの構築、マニュアル・ルール作り、日常管理、防災訓練の改善、防災意識の向上、行政との連携・役割分担の明確化・関係構築、などが挙げられた。

まとめと今後の課題

熊本地震では、車両避難が多く以下のような傾向があった。
・通常の公園利用の誘致圏よりも広範囲から集まっていた。
・避難場所や駐車場代わりにし、通勤や買い物に外出する人が多いため、昼夜で状況が大きく異なっていた。
・その時に必要な状況により、流動的に場所を移動していた。
こうした流動的な避難は、これまでの地域防災計画や備蓄計画、避難所開設マニュアル等ではあまり考慮されておらず、今後の検討が必要である。
また防災公園・施設については、現地調査により以下の情報を得た。
・備蓄倉庫の物資はよく使われていたが、「食料や毛布の数量が足りなかった」「配布ルールが不明瞭ですぐに空っぽになった」といった利用者からの意見があった。
・耐水性貯水槽もよく使われていたが、2か所で「すぐに泥が混じって飲み水には使えなくなった」といった意見があった。
熊本地震は、阪神淡路大震災以降に「防災公園」「防災公園施設」を整備してきた大都市を襲った直下型地震であり、今後は避難行動を助けるために整備された「防災公園・施設」の使われ方をハード・ソフトの両面から検証する必要がある。

調査協力(平成28年):大都市都市公園機能実態共同調査実行委員会
( 株) 公園マネジメント研究所、
熊本地震都市公園利用実態共同調査、
「熊本市、熊本市都市政策研究所、( 一財) 公園財団、
国土交通省国土技術政策総合研究所、
大都市都市公園機能実態共同調査実行委員会、
( 一社) 日本公園緑地協会、( 公財) 都市緑化機構、
大阪府立大学、九州大学、滋賀県立大学( 順不同)」

 

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