生物多様性に配慮した管理運営と全区的な取り組み

駒場野公園

カテゴリー:市民参画 環境教育 生物多様性 緑の保全・創出

駒場野公園 写真

施設概要

所在地 東京都目黒区
開設 昭和61年3月31日
面積 3.9ha
公園種別 地区公園
設置・管理者 目黒区

 目黒区は、区民が日常生活の中でふれあう『身近ないきもの』に着目した都市緑化を推進しており、みどりの基本計画においても「野鳥の年間確認数50種以上を維持」という目標指標を設定し、自然と共生する様々な取り組みを展開しています。
 こうした取り組みを本格的に開始したのは昭和56年頃です。そのきっかけとなったのは目黒区立駒場野公園での自然保全・活用に向けた取り組みでした。そして駒場野公園では、現在でも生物多様性に配慮した様々な環境保全活動が行われています。
 ここでは、その駒場野公園での生物多様性に配慮した管理運営とそこから展開した全区的な取り組みのいくつかを紹介します。

詳細

①取り組み内容
(1)駒場野公園での取り組み

 駒場野公園は、明治11年に日本の農業の近代化を図るため設立された駒場農学校(後の東京教育大学農学部)の跡地を昭和61年に都市公園として整備しました。園内には水田やため池、雑木林など武蔵野の雰囲気の漂う自然が残されており、昔から地域の方々に親しまれています。

 昭和56年に公園としての土地利用計画が決定した当初から、地元住民の間で当地に残された豊かな自然の保全・活用を考える動きが出ていました。そこで、当地の公園整備計画は、自然の保全と活用を軸とし、地元住民と一体となり進めていくこととしました

1)里山の環境づくりを目指した整備計画

 公園の整備に先駆けて行った、当地の自然の豊かさに着目した簡易的な動植物調査をきっかけに、目黒区全域で専門家を交えた自然の調査を行い、昭和58年に「街の自然12か月」を作成しました。これが、目黒区の本格的ないきもの調査の始まりでした。この中で当地は区内有数の自然を持つことが再認識され、公園整備の基本構想の考えにつながることとなりました。

 また一方で、自然調査や類似施設の見学会、公園予定地内の雑木の剪定・伐採の講習などを地元住民とともに行い、行政と区民、両者の自然管理や公園の運営管理についての理解を深めていきました。

 こうした住民や専門家との調査・研究を踏まえ、既存の自然資源を生かした多様な生物が生息できる環境を整えるとともに、地域に愛されていくような里山の環境再生を目指しました。
≪駒場野公園で行った整備内容の例≫
・既存の樹木構成を基に、クヌギ林・アカマツ林・ハンノキ林などに分類し、コナラ、ホウノキ、エゴノキなどの高木、ヤマツツジ、ニシキギ、コゴメウツギなどの中低木を合わせた植栽配置 ・既存の池・水田を活かした既存植生のセリ、ミゾソバや、トンボ、アマガエルなどが生息できる水辺環境の保全 ・魚や昆虫等の小動物の生息地となる自然石積みの護岸整備 ・伐採した樹木や剪定枝を活用した小動物の生息環境づくり

2)住民参加型の管理運営

 公園整備計画の検討・自然環境保全の取り組みを地元住民とともに進めていく過程で、「地域の環境を守っていくためには住民が管理活動を行うことが大切だ」という考えが生じ、開園後も住民が管理運営に携わる『住民参加型の管理体制』の検討がなされました。区は管理運営計画を作成し、住民の自然観察や管理作業など活動の場となる「駒場野自然クラブ」を立ち上げました。さらに、地元住民は、昭和30年ころまで生息していたホタルが再び生息できるような環境づくりを目指し、自ら「駒場野ホタルの会」を設立しました。

 現在では、他にも、雑木林の管理(森のみどり人〔みどりすと〕)、落ち葉や生ごみ堆肥づくり(こまばリサイクルの会)、山野草の保護(野の花クラブ)、花壇活動(グリーンクラブ)など、6つの住民によるボランティアグループが定期的に活動しています。また、区が主催する「駒場野自然クラブ」の活動も月に2回開催されており、連携をとりながら公園の管理運営に関わり、区と住民が一体となって”自然を守り育てる”公園の管理体制が築かれています。

≪駒場野自然クラブ≫

 雑木林や水田が残る貴重な空間において、専門の講師を招いた自然観察や雑木林の管理作業や、園内の動植物の調査を継続的に行っています。現在、雑木林の萌芽更新や、炭焼きなどの活動を月に2回実施しています。

≪駒場野ホタルの会≫

 駒場野ホタルの会は、水田を中心とした水辺の生態系を取りもどし、最終的にはホタルのすめる環境を目指して、地域住民中心で活動しています。環境づくりと合わせ、会員が幼虫を育て放流し羽化に合わせて観察週間を設けて地域住民に自然と親しむ機会を提供しています。

(2)駒場野公園から展開する全区的な取り組み

 自然環境保全に配慮した駒場野公園での住民・専門家と一体となった公園づくり・管理運営で得た知見をみどりと公園行政に反映し、目黒区ではこれまで下記のような施策(画像7)を展開してきました。特に、みどりの「質」の指標として、いきものの生息の実態と経年変化を把握するため、住民参加型の環境学習プログラムや、専門調査を数多く実施しています。

1)住民参加型の環境学習プログラム

≪いきもの発見隊≫

 目黒川、区立碑文谷公園などで、生息している魚類等の記録とともに、啓発事業の一環として毎年継続して行っており、その生息状況の変化を捉えています。目黒川では、近年アユやウナギなど、碑文谷公園ではヨシノボリ等が確認されています。

≪学校ビオトープ≫

 生物の回復を図るために、区内の小学校・幼稚園に計21カ所の池型ビオトープを設置しています。駒場野公園で見られるような良好な水辺環境での自然の営みを身近で観察し、管理活動を行っています。

≪めぐろいきもの気象台≫

 指標種となるいきものについてのわかりやすいパンフレットを作成し、自然通信員(約1,100世帯)に観察記録を区に報告してもらい、変化するいきものの実態を区民とともに記録しています。これらにより、区内のいきものの実態把握が進んできています。同時に、調査へ参加した区民にはいきものの発見に驚き楽しみ、身近な自然について体系的に学ぶことができる場を提供しています。

2)専門調査

≪緑の実態調査≫

 区内のみどりの実態を把握し、みどりの環境の推移を解析するとともに、今後の区の緑化施策推進の基礎資料とするため、昭和46年から定期的に実施しています。調査結果を分析した上で、地域別のみどりの現況と課題をまとめました。また、取得した情報をデジタルデータで効率的・一元的管理を行うため、簡易な操作で情報が活用できる「緑のGISシステム」を構築しました。

≪全域鳥相調査≫

 区の鳥相を緑被率やみどりの量などとの関連でとらえ、区内の自然環境の地域特性を引き出すため、番地単位で詳細に調査した鳥相調査や、特定種の行動追跡調査(オナガ群追跡調査)を行っています。出現した種全体の季節変化や、オナガの緑地利用パターンを割り出すなど、都市での野鳥の生活などを詳しく調査し、この結果を街づくり計画に反映させています。

3)『いきもの住民台帳』の発行

 こうした住民や専門家と連携した活動の記録をまとめ、全区的な目黒区動植物リストとして発展させたものが『いきもの住民台帳(暫定版:2007)』です。さまざまな自然観察情報を一元的に集計できるパソコンシステムが作られ、住民参加型の生物調査事業とデータ集積が進んできています。今後、全区的な自然環境基礎調査等を進めながら、リストの充実を図ることとしています。

②成果・効果
(1)駒場野公園開園後の住民活動による効果

・萌芽更新を行うことで、雑木林の特徴であるタチツボスミレの群落等の多様な林床の植物を回復することができました。また、林床を保全することで、区内でも生息が限られているアズマモグラの生息、昆虫類ではゴマダラチョウ、オトシブミ、コクワガタなどの生息が引き続き確認されています。

・駒場野自然クラブでのクモやキノコの継続的な調査により、公園内の分布や変化に関する実態が明らかになってきています。

・昆虫類の住処(すみか)となる粗朶(そだ)置き場や鳥の巣箱の設置等の活動によって、公園の自然環境の回復が図られています。

(2)いきもの住民台帳への掲載数

 これまでの住民参加型のいきもの調査、継続して実施してきた専門調査のデータの蓄積により、植物、きのこ、クモ・昆虫、魚類等の掲載可能なデータが蓄積されました。おおむね30年間の生物相の記録から、地球温暖化等の自然環境の変化を把握することができています。

掲載種
植物 1,000種以上
きのこ 約250種
クモ・昆虫 約1,000種
魚類 約30種
両生類・爬虫類 約20種
哺乳類 約10種
鳥類 約150種

 

③課題・今後の展開 等
(1)公園内のボランティアの次世代の育成

 これまで駒場野公園内で継続して活動を行ってきたホタルの会や自然クラブでは、新たな若い世代の参加が課題となっています。若い世代は子どもが小さい間は家族で参加しますが、子どもの成長とともに参加が減るなど、活動経験の長いリーダー候補の育成が今後の課題です。

 こうした次世代の活動を担う後継者を育てるために、自然クラブやホタルの会、森のみどり人〔みどりすと〕といった団体と協力し、キノコ作りや炭焼き(画像15)など、できるだけ多くの住民が参加できるプログラムを組み、ボランティア活動のPRを図っています。

(2)全区的な取り組みにおける課題

 『いきもの住民台帳(暫定版:2007)』については、地域別、分類別の集計など、より区民が活用しやすい形での公開が求められており、写真等のある図鑑的な冊子の作成も課題となっています。

目黒区 都市整備部 みどりと公園課 公園計画係

 

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